4F:結局僕ら、ロンリネス。
「正義と悪ってなんなんだろう」
それは煙草をふかし、紫煙を火葬場の煙の様に立ち上らせた男の独り言だった。青空に近い髪色に金貨より輝かしい黄金の瞳。日本人離れしたカラーリングを持ちながら、純日本人の名を持つ男は夕焼けを被って立っていた。
屋上の手摺りに肘を乗せ、カマーベストの上体を無防備なその先へ晒している。携帯灰皿の蓋で器用に開閉を繰り返す己の左手をちらりと見やってから
「難しいよね。俺が正義だと思っていることは君にとって悪かもしれないんだし」
限界まで味わった煙草を灰皿で捻り消す。吸殻を食べたそれを軽く握り潰す。
「俺の正義が日本の憲法に引っ掛かればそれは悪。俺の所属する組織でそれが悪だって言われれば、俺は正義と思っても隠すしかない」
言葉を受けている男は、手摺りに寄り掛かりながら煙草を取り出した。黒手袋で取り出したそれを返事の代わりに差し出せば、苦笑した青髪が胸ポケットから取り出したライターで火をつける。
「ありがと」
吸い込み、吐き出した煙は夕焼けを受けて淡いオレンジ色だ。意図的に崩す様に息を吹き掛ければ消える小雲。満足気に煙を吸い込む白髪の青年を見た青髪は静かに上体を崩す。手摺りを掴み肩甲骨と背骨を思い切り伸ばしながら、漏れ出た息と共に美宏、と隣の青年を呼んだ。
獏の様な白と黒髪の隙間から紫の瞳が覗き込む。煙草が離れた口が何、と聞く前に
「君は、俺と正義の定義が違ったらどうする?」
「どうするって」
吸い殻を味わう前に上空を見上げる。次いで青髪を見れば、彼は決して綺麗と言えない手摺りに頬を乗せて解答を待ち望んでいる。
視線を逸らした。揺蕩う紫煙を眺め、そうだなぁ、と呟いた彼は煙草を揺らして灰を落とし
「理解できるようにプレゼンしてよ。そういうの、昴は得意でしょ?」
溝に落ちたそれを見送った後に見やれば、青髪の昴は目を細めていた。明るく鮮やかな青髪に潜む二つの星。昴と成るにはあと四つ必要だが、双眼の黄金は不足分を優に補う輝きだ。
名に負けない昴は口元を緩め「そういうの大得意」と続けて笑い
「俺、美宏の友達でよかった」
美宏の瞳が昴を捉える。手摺りに顎を乗せあざとく首を傾げる成人男性を前に
「え、友達だったの?」と返せば
「プレゼンしよっか?」反射で返すこの男。
「嘘。ちゃんと友達だよ」
この一言で子どもっぽい喜色を浮かべていることを指摘する代わりに、煙草を吸い込み、静かに吐いた。
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