1F:わたしの青いおまじない

足先にネイルを塗るのは私の趣味で、おまじないだ。小さな爪に、好きな時に好きな色を乗せるのが大好きなんだ。


昔お父さんがくれた、お菓子の可愛いカンカンに詰め込んだたくさんの色。ビビットからパステル、ラメやシュガーパウダーまで。昔、小学校で使っていた十二色色鉛筆より、ロケット色鉛筆よりずっと色の多い小瓶の数。あの時はキレイで大好きだった金銀はもちろん、特に好きなブルーとパープルは幅広く揃えてるの。


カンカンを覗いたお母さんには「全部一緒でしょ?」って言われたけど、ちがうんだよ。この子とこの子は違う味の偏光ラメがあって、あの子は色だけで勝負してる。


つまり、何が言いたいって、私は足のネイルが好きってこと。ペディキュアが大好きってこと。


だから、そうだね。もう一個言いたいのは


「いつもこういう色塗ってるの?」


そう聞くあなたはどんな気持ちなんだろなーってこと。


付き合って数ヶ月に入るけれど、あなたの家にお邪魔するのは初めてだった。お互いに誰かとのお付き合いは初めてじゃなかったから、自然と始まることは決まってる。私の髪を撫でて、軽く優しく、それでも逃げ出せないように抱きしめてくる。そんなゆるーい拘束のまま甘いキス。ソファに倒れ込んだ私の足から、ストッキングを脱がす手つきは一体どこで覚えたんだろう。


まぁ、私もキスのやり方は元カレから教わったけど。


あなたはじっとペディキュアの青を見た後、私の足の甲を人差し指で撫でてきた。その手つきは別にやらしいわけじゃないけど、慣れない感覚に跳ねる私の足。それをかわいいと笑ったあなたは、足の裏を手のひらで優しく包み込んでくる。


変な汗をかいていないか、今更心配になってくる。でもそんなことより、さっきの君の言葉が気になって仕方がない。


……爪を青くする女の子は、嫌いですか?


きっと私の気持ちに気づいてないあなたは、目を細めてから優しく爪先の青をなぞって


「似合ってる」


そんな風に嬉しそうに言うから。言ってくれたから。たった一言で、あなたに全て認めてもらえた気がして、嬉しくて。


言葉にする前に大好きな頭を抱きしめれば、カチャッて何かが鳴った。きっとそれはサイズの合ってない黒ぶちメガネ。コンタクトは怖いから嫌だと口先を尖らせていた君。


ほんとはコンタクトにして欲しかったけど、正直計画してたけど……君の大事を、私も守ることに今決めた。


ぎゅっと強く抱きしめれば、苦しいよって囁く声が耳の近く。


ねぇ、そんなこと言わないで。私のハグを受け止めて?


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