3F:ビター・ドリーム・パフェ

こんな夢、追うんじゃなかったと思うことがある。


紫煙に含んだ溜め息は、空気を掻き混ぜて目の前から消えた。誰かから発した紫煙が視界を掠めて去っていく。気ままにくゆるそれに一種の羨望を覚える時点で、もうダメなのかもしれない。


腕を組む私の真正面は紙が散乱していた。黒やオレンジ、青の言葉にならない文字の山。たまに英数字が並んでいるのはただの見栄で、本当は今の問題にちっとも理解も必要もない。つまるところ、喫茶店で夢に悩む私に酔っているのだ。


喫煙室の文字が踊るドアの先、ランドセルを下ろした小学生がパフェを前に喜んでいる。チョコソースのかかったバナナパフェ。メニューより遥かにかかっているソースは子どもへのプレゼントだろう。


もうそんな時間かと思う。言われてみればアイスコーヒーの氷はすっかり溶け切っているし、コースター代わりの水溜りが出来上がっていた。


何十回と没にしたプロットに擦りたい衝動を抑え、プラスチックの灰皿へ吸い殻を押しつける。おいしそうに頬張る姿を動物見物のようにしていれば、チラリとこちらを向く母の警戒。それを正解としないように、あくまで自然を装いながら唯一注文していたコーヒーを口にした。チェーン店特有の鋭い苦味に刺激される。


子どもには理解できないだろう苦味で一息つき、ペンを取った。それは本当に無意識で、まだ足掻く気かと脳の隅が呆れ返る。


そんな目で見ないでくれ。現実を叩きつけないでくれ。ペンを走らせながら、新しい煙草に火をつけた。


コーヒーと混ざる煙の味が、大人の癒しを提供する。子どもの頃あんなに優しかった世界は、今はちっとも優しくなくて。


……ああ、でも。二百五十円の一杯で救われるのなら、まだ価値はあると思いたい。

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