2F:さんにんそろって

服というものに全く興味はないし、正直着られればなんだっていい。と、ごちた言葉に待ったをかけたのは赤髪が印象を残す灘羅くのだった。


「美宏(びこう)さんも時雨(じう)くんも服を新調するべきです!」


その一言で少年たちの足を急かした先は近所のショッピングモール。先立って歩いていた、セーラー服をアレンジしたようなワンピースを着た彼女は、柏手のように他人事の顔をするふたりの眼前で鳴らすと


「おふたりの服を探しに来たんですから、もっと真剣に行きましょう?」


「探すも何も……わかんないよ」


日光が苦手な空河時雨(くうがじう)は常時サングラスをかけているせいで、蛍光灯と人の視線すら苦手になった。伸びきっている黒いタートルネックの袖口をこれでもかと引っ張り、指先まで隠すとショッピングモールと自分を分断する。


「僕は……目立たなければなんでもいい」


「でも時雨くん。美宏さんと一緒にいる時点で目立つよ?」


「……、」サングラス越し、黄と青で色違いの双眼を瞬かせ「……確かに」


「失礼な。俺より時雨の格好の方が目立つ」


「美宏さんは生まれ持った髪が目立つんですから! 時雨くんはまだ許容範囲です!」


「ここに来るまで時雨、何度職質されたよ」


「……さん、かい……」


「ね?」


「ね? じゃないです! 時雨くんのメンタル削らないでください! 今日だって頑張って来てくれたのに!!」


黒いキャスケットを限界まで被り落ち込む時雨を、庇うように立つくのは本気で怒っているようだった。眉間に寄った皺、真一文字の口、何より真剣に睨んでくる新緑に近い瞳がそれを伝えてくる。


先程彼女に指摘された髪を摘み、騰美宏(あぐりびこう)は溜息を漏らした。確かに、全体が白ながら毛先のみ黒いこの髪は時雨以上に目立っても可笑しくないのだろう。それに加えてこちらは年数を察してしまうほどよれた白いTシャツに自分でダメージを与えたジーンズ、この中不気味なほど綺麗に磨かれた革靴だ。こんな格好と真っ黒な不審者が並んでいれば、当然先ほどから通行人の目を引くわけで。


「……くのも、無理に付き合わなくていいよ。さっきからくのも変な目で見られてる」


「何でですか。私はおふたりと一緒にいたいからいるんです」


やけにはっきりとした返答に美宏が言葉を詰まらせれば、くのはその顔を見定めるように決して視線を外さない。若干の不穏な空気に時雨の目が泳ぎ始めた時、小さく柔い手が不審者ふたりの手を繋いだ。


驚き目を丸くするふたりの間、真っ赤な髪とつむじが揺れ動き


「美宏さんと時雨くんが不審者だっていうなら、私も不審者になってやりますよ」


かっこいいおふたりの真ん中で手を繋いでいれば、私はビッチとか言われるんですかね。そんな心底楽しくない予想を言いながら、真ん中で愉快そうな笑顔を浮かべる灘羅くの。


頭ひとつ背が高い時雨と美宏は、彼女の頭上で視線を混ぜ合わせた。サングラス越しでもわかるほど困惑と申し訳なさを伝えてくる時雨の一方、葡萄色がの瞳を投げかけた美宏は諦めたように繋がられた手を持ち上げる。


こうなると灘羅くのは梃子でも動かない。彼女は無邪気で、自分の意思が強いのだ。


繋いだ手を引っ張りながら前へ進む彼女へつられて足が一歩ずつ進む。それが無理矢理から自分の意思に転じ、三人同じ歩幅で歩き始めた後には穏やかな諦めと希望の会話が足跡になり始めていた。


「で、何買えばいいの」


「おふたりとも、まず全身ですね」


「まず、の使い方合ってる……?」


蛍光灯の下、三つの影は夏を忘れるほどぴったりと寄りそっている。

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