第3話 日諸 畔(ひもろ ほとり)と呼んでください

 某大手SNS。ちょっと前まで外国の偉い立場に就いていた人も大好きな、あれのことだ。

 随分前に取得しただけて放置していたアカウントを再利用しているため、プロフィールだけだと古参に見えてしまう。実際のところは、数回呟いただけで飽きてしまった、ドのつく初心者だ。


 名前は登録当時のままで、あまりにもテキトーだった。これはカクヨムの登録名にしておこう。こっちもテキトーなんだけど。ちゃんと決めたら変えればいい。

 アイコンは、俺の愛してやまない変身ヒーローアニメの主人公に設定してあった。これはそのままにしておこう。当時の俺はとてもセンスがいい。

 自己紹介文はどうしようか。とりあえずは、小説を書き始めたアピールをしよう。


 あと重要だと思ったのは、個人情報をどこまで晒すかだ。仕事の合間にやってるので、身バレはまずい。かと言って、あんまり隠したり、無理なキャラ付けするのもどうかと思う。

 存在を認識してもらいたいならば、自然体の方がいいだろうと考えた。年齢は明言しないものの、嘘はつかない『おじさん』を名乗る事に決める。これは、今考えても英断だった。


 宣伝をするにも、フォロワーさんがいないと始まらない。まずは小説を書いている関係の人を探してみよう。

 俺は思いついたキーワードで検索をかけてみた。


 あ、やべぇ、すげー多い。


 フォロワー1,000人超えがゴロゴロいる。2,000人や3,000人の人も普通みたいだ。

 こいつはいかん。俺なんか余裕で埋もれるわ。

 宣伝さえすればたくさん読まれると思っていた俺の考えは、とっても甘かったようだ。SNSを始めたことで、この世界の広さと深さを痛感することになった。


 もうひとつ感じられたことがあった。みんな楽しそうにSNSで交流しているのだ。小説の話だけでなく、雑談の方が盛り上がってるとさえ見えた。

 俺は勘違いしていたことを痛感した。これは、宣伝をつつも、同じ趣味や志をもった人達が交流を楽しむものだったのだ。ならば、俺もそれにノるのが礼儀というものだろう。

 自己紹介文に、趣味の文言を追加する。某超有名ロボットアニメのオタクだとか、俺の一番愛するアニメとか。


 以降、《辻フォローおじさん》時代が始まる。俺の呟きに対し、何らかの反応をしてくれた方をフォローするというやり口で、フォロワーさんを徐々に増やしていった。

 そんな怪しいおじさんと交流してくれた方々には、大変感謝している。この場を借りてお礼を言いたい。


 あんまり興味がなかったはずのSNSが楽しくなってきた頃、とある企画をしている呟きが多く目に入るようになった。

 要するに『あなたの小説を読みます』という趣旨のものだ。俺は特に考えず、短絡的に飛び付いた。まずは読んでもらわねば始まらないのだ。

 しかし、大量の応募がある中で、怪しいおじさんのよくわからない小説はあまり読んではもらえなかった。


 そんなSNS生活をしつつも、速いペースではないものの、自作はちゃんと更新し続けていた。モチベーションが続いたのは、我ながら凄いと思う。それは、脳内で付き合いの長い、登場人物たちへの礼儀のつもりだったんだろうなと思う。

 カクヨムでもなんとか宣伝しようと、いくつか自主企画にも参加していた。そこで気になった自主企画の参加条件に、俺の心は撃ち抜かれた。


『雑なペンネームの方は受け付けません』


 おおぅ、そりゃそうだ。いくら真剣に書いていようとも、いくら(たぶん)面白い内容であろうと、作者が《ほほほほ》みたいな名前の小説は読まないだろう。

 俺は慌てて、ちゃんとした風に見える名前を考え始めた。そこで露呈したのは、俺は命名が苦手だということだ。


 小説の登場人物たちは、過去の妄想に出てきた名前をそのまま使っている。だから、書き始めた当初から悩むことはなかった。

 しかし、小説のタイトルや、主人公が使う特殊能力の名前には悩みに悩んだ経験がある。

 あ、関係ないけど『カムイ』とか『カミガカリ』って、凄い良い名称だと思ってるが、どうだろうか?


 で、俺自身の呼び名にも、当然のように悩むわけだった。

 ペンネームであるならば、俺のこだわりとして、実在する名字や名前にしたかった。

 ちょいと事情があって由来は説明できないのだけど、なんとか決めることができた。曖昧な記憶だが2日ほど悩んだ気がする。


 そして俺は《日諸ひもろ ほとり》を名乗ることになる。

 もしかしたら、名付けは苦手だけど決めてしまえばセンスがいいのではないか? なんて自画自賛もしたくなるペンネームだと思っている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る