Folge2「編入時には垣をせよ」

「編入生を紹介します。」

 自分の学校生活最初の一言。言う言葉はもう決めていた。

「自分はリー・・・ゲフン!木春愛って言います。よろしくお願いします!」

少しいい間違えそうになったけど、自分の中で最も完璧な自己紹介だったと思う。教室を見渡すと、みんな少し驚いてそうだけど特に不信感は抱いて無さそうで安心した。

「それでは木春さんはあそこの窓際の席に座ってくださいね。」

「はい。」

自分の席は、陽当り風当たり共に良く、休み時間には寝てしまう。こうした休み時間の間に、クラスメートからは自分がどこから来たかなどを聞かれる。

「木春さんはどこから来たの?」

「えーっと・・・。」

流石に怪しまれそうだから宇宙から来たとは言えない。ひとまずいい感じに嘘をつく。

「北の方かな・・・?」

こんなのでいけるだろうか。そんなことを感じながらも何食わぬ顔でみんなのことを見た。

「そうなんだね!それならここの辺りは暑いんじゃない?」

「そ、そうかも知れない・・・!」

自分、元々温度を感じないけど、と思いながら聞いていた。クラスメートと話していると、徐々に打ち解けてきた。まだ緊張して話し方はぎこちないが、これもじきに慣れてくるだろう。

 友達関係以上に自分の苦手な事があった。それは、地球の文字が読めない事だ。

「これ、なんて読むの?」

「これは、リストって読むんだよ!」

「ありがとう!」

この有様だ。カタカナも読めない。こんなのだったら近いうちに正体がバレそうな気がする。

 家に帰ってからは自分の時間。時々買い出しに行かないと行けないけれど、コンビニでクラスメートに会うととても嬉しい。自分は自分と仲良くなったり、必ず関わる事になる人には好意を抱く性格なので、話し方がぎこちないだけで内心はとても幸せな気持ちになる。

「あ!木春さんだ!こんばんは!」

「こんばんは。麗鷲うるわしさん。」

話しかけてきてくれたのはクラスメートの麗鷲さん。一番最初に話しかけてきてくれた、自分の友達だ。

「木春さんは晩御飯の買い出し?」

「そう。麗鷲さんも?」

「うん!お父さんに頼まれてね。」

「そうなんだ!」

「じゃあまた、明日学校でね!」

「うん、また明日!」

 家に帰って、晩御飯の支度をしていると、テレビから気になるニュースが流れた。

「本日午後、九蘭村にて、突如何も無いところから急に女の子が現れたということです。」

そう、自分のニュースだった。びっくりして、気づけばテレビをじっと見つめていた。

「自分が報道されてる・・・。」

少し複雑な心境になりつつも、ご飯を食べた。今日の晩御飯は「豚の丼ぶり」だった。

「ふぅ、ごちそうさまでした。うっ・・・!」

晩御飯を食べた後、酷い腹痛に悩まされた。体に悪そうなものは食べてないのに。

 腹痛がおさまり、お風呂に入って歯磨きなどをして、今日はもう寝た。

 次の日、昨日までいなかった男の子が来ていた。

「あ、あの、はじめまして。自分、木春愛って言います!よろしく!」

「俺はレン。よろしく。」

その男の子は、少し大人しく、クールな感じだった。すると、自分の胸の中から何か温かい気持ちが湧き上がってきた。今までの好き感情と違うような気がするが、近い気もする。

(なに、この気持ち・・・。胸の奥がなんかゾワゾワする・・・。もしかして、これが恋・・・?いやいや、まさかそんな事無いよね・・・。)

そう自分に言い聞かせながら挨拶と自己紹介を済ませた。しかし、授業が始まってもレンの事が頭にこびりつく。何故かずっとレンの事を考えている。まさかこれが本当に恋なのか。モヤモヤしたまま授業が終わった。

 この気持ちが気になって仕方が無いので、自分は休み時間に図書室へ行った。そこで、ある一冊の本を見つけた。島崎藤村の『若菜集』だった。最初は恋に関することは書いていないと思った。暫く読み進めると、一つの詩に出会った。タイトルは『初恋』。リンゴの木の下に立っている女性に恋をした男性の初恋の気持ちを書いた詩だ。

「こんな詩があるんだ・・・。」

自分にはどういう意味かわからなかったが、何故か身体が少し火照って恥ずかしい気持ちになった。

 さらに深く知るために簡単な訳のついた本を借りた。この訳によると、男性は何度かリンゴの木の下にいる女性の元へ通っているらしい。

「愛というのはそういう感じのものなのかな?」

 とりあえずその本と若菜集を借りて、図書室を出た。

「うーん。イマイチ愛について分からないなー。」

残りの授業に集中しつつも、頭の片隅には愛について考えるスペースがあった。

 帰り道、麗鷲さんといつものように帰り道を歩きながら、自分はある質問をした。

「ねえ、麗鷲さん。」

「どうしたの?木春さん。」

「愛って何だと思う?」

「うーん、そうだねー。わたしは、愛は無意識に生まれてくる、守りたい、自分の温かい気持ちを伝えたいっていう気持ちなのかなって思うよ。」

「そうなんだ・・・。」

彼女の言葉に思うことがあった。実際、レンに自己紹介したとき、心が熱くなった気がした。本当に自分はレンに恋をしているのだろうか。そんな自分の歩いている道の端には、ハルジオンが夕方に差し掛かった太陽の光に照らされて輝いていた。

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玉虫色の慕情 トウヤ・ウナム @Yahhiyi

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