第2話 邂逅

「痛ったー!! ……くない?」


 あれ? 背中に物凄い激痛が走ったと思ったんだけど?


「……あれ!? 幼女は!?」


 腕の中に在ったあの柔らかくあたかなぬくもりが消えている!?


「あの子なら無事ですよ」


「ひぅっ」


 突然女の声が聞こえた事に驚き喉から変な音が漏れた。


「だ、誰!?」


 そう誰何すいかしつつ声の聞こえた方を振り返る。


 そこには私と同じかちょっと上? 位の年の頃の女性がいた。


 ……よ、幼女の母親!? や、やばい見られてた!? え、で、でもあれは——レッド? レッドなの!? 一発退場!? あ、や、何とかイエローで、注意? ……警告だっけ? 次やったらあかんよ? 的なので何とか……。


「え、あ、あれは——」


「素晴らしいです!」


 何とか言い訳しようと声を出そうとしたところに、かぶせる様に声を上げる女性。


「名も知らぬ幼子おさなごを身をていして守るなんて! わたくし感動しました!」


 感極まった様に話し出す女性。


「えっと……」


「しかし、これ程までに高潔なる精神を持った方が、こんなにも短命で輪廻に帰ってしまうなんて何て悲しい事でしょう!」


 ん? ん? 短命? 輪廻?


「ですので! 是非とも私の世界に来ませんか!?」


 とてもきらきらした瞳でそう言って見つめてくる女性。


 何か、とても、凄く、嫌な予感がするんだけど……先ずは確認すべき事を確認しよう。


「えっと、お子さんはちゃんと家に帰りましたか?」


「お子さん?」


 心底不思議な顔で問い返せれる。あれ? 通じない?


「えっと、さっき迄公園にいた子なんですけど……」


 私が言い直すと、


「ああ! あの子の事ですか! はい! 貴女のおかげかすり傷一つ無く、無事お家に帰りましたよ」


 妙にテンションが高いな。いささか不穏な文言があったような気がするけど、ちゃんと帰れた様で良かった。


「…………」


 相変わらずきらきらした瞳で私を見ている。……さっきの返答待ちなのかな?


『是非とも私の世界に来ませんか!?』


 いや、私そっちの趣味は無いので……幼女は好きだけどそういうのじゃないんですよ。って、そういう話じゃないですよね~はぁ。


 まぁ先延ばしにしてもしょうがない。覚悟を決めますか。


「え~と、私どうなりました?」


 と聞くと、さっき迄のきらきら瞳がかげり、雰囲気が一気にしゅ~んとなった様に感じる。そして——


「残念ながら即死でした」


 即死……死……死んだ?……まじか~。幼女に手を出した罰ってか? いやいやちょっとぎゅっとしただけですよ? そりゃ下心は有りましたけど? 駄目? アウト?


「う……でもでも、貴女のお蔭であの子は掠り傷一つ無く助かったんですよ!」


 何か励まされてる? まぁ自分が死んだって聞かされれば落ち込むでしょ。

 普通は信じない? じゃあここに居る私は何なんだって? うん、何となく自分の状態が普通じゃない事は感じている訳ですよ。


 ん? そう言えばさっきも私のお蔭であの幼女が助かった的な事を言ってたな。


「私のお蔭でよう——んっ、あの子が無傷だって……」


「はい。貴女のお蔭であの子は無傷でした」


「…………」


「…………」


「えっと、何が原因かは……」


「え? あ! そうですよね! 元凶を知りたいですよね! あの事故はですね——」


「あ! 痛い表現は無しの方向で!」


「へ? あ、はい。それであの事故は——」


 ふ~危ない危ない。自分が即死した時の詳細なんか聞きたくないよね?

 絶対痛い話だし、あの時痛かったし一瞬だったけど。


 それで、私の死因は事故死。公園の隣の家がガス漏れ事故で大爆発したらしい。ガス設備が在った一階部分は消し飛んで、二階部分もぺしゃんこになったそうだ。

 当然隣近所にも滅茶苦茶被害が出たらしい。


 そして、その家の破片が公園にも飛んできて私に多段ヒットし即死。

 ただ、幼女をぎゅっとした瞬間に起こったので、飛んできた破片は私の体で受けきって、私に包まれていた幼女は無傷で助かったと。


「私はあの子の為に生きてたって事かな」


「うわ~ん! そんな悲しい事言わないで下さい~!」


 何故か話していた女性がそう言って泣きながら抱き着いてきた。


「貴女はあの子の心を救い! 結果的にあの子の命も救いましたけど! あんな事が無ければ、もっともっと多くの事が出来たはずなんです!」


 そっか……でも、もう死んじゃったんだよね……う、そう考えたら急に…ぅぅ——


「ですから! 私の世界に来てやれなかった事全部やりましょう!」


 そう言って、涙で濡れた瞳にさっき迄のきらきらを纏わせ私の瞳を覗き込んできた。

 出かかっていた涙が引っ込んだ。

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