落ちこぼれの魔法使いは英霊と共に歩む

杏里アル

第1話

 ――僕は学校というのが嫌いだ。

 常に周りと比べられてしまうから、常に劣等感を抱かされてしまうから。



 魔法使いとして優秀な血筋に生まれた僕は、父さんや母さんの背中に追いつこうと必死だった

 でもそれは僕が望んでいたからじゃない、周りがそう期待していたからだ。



「お宅の息子さん、今日も失敗したんですって?」

「アルメリア家でも劣等種ってのは生まれるモノなんですね」



 優秀な『アルメリア家』のエリートなら出来て当然、将来は大賢者も夢ではない、と教わってきた

 お前なら火、水、雷、氷の4系統の魔法を使いこなせるはずだと、父さんに毎日言われ続けてきた



 周囲の期待は風船のように膨れ上がっていき、僕は段々と……

 その期待する速度に追いつけず、ジリジリと離されるように応える事が出来なくなっていった。



「まったくどうなっているんだルイは!! いくらやっても全然ダメじゃないか!!」



 ある日、父さんは僕を叱った

 理由はもちろん、提出しなければいけない課題の点数がどんどん悪くなっていっているからだ。



「平均点ギリギリじゃダメだろ、お前は誰の息子だ!! 俺の息子だろ!? もっと全力で取り込むんだ!!」



 父さんは頬を叩き、僕がごめんなさいと言っても怒りの言葉を止めてくれなかった。

 もう……本当に、疲れた。勉強なんて嫌いだ。魔術なんて嫌いだ。




 全部嫌いになっていった、自分も、周りも、家族も、何も楽しくない。




 そう思っていくうちに4系統はおろか、魔法の詠唱すらも間違えてしまい、何をしても上手くいかない僕に周りは冷めた目で段々と見始め、やがて『落ちこぼれ』とクラスメイトから呼ばれる事に慣れた頃にはもう……




 イジメが始まっていた。返事をしたら笑われ、時間が勿体ないからと掃除を頼んだり。

 僕は心の底から学校が楽しくなくなっていた。




(だから僕は、自分自身も学校も嫌いだ)




 ――そんな僕が変われたきっかけ、それは15歳になったシュテッヒ魔法学校2年目の春。数10人が走り回れるほどの庭で行われた変質実験の授業の途中だった。


 授業の内容は至ってシンプルで、実験カエルをチョウチョに変質させるという内容、でも僕は周りのクラスメイトにすらついて行く事すらも困難で……



「えいっ」



 杖を振って魔術を唱えると、カエルはミミズに変わる。

 周囲は笑いを堪えるのに耐えきれず、大声でバカにするように笑った。



「だっせえええ! お前だけだぞ出来てねえの!!」

「ほんと、落ちこぼれルイ君のせいで他のクラスに噂が立つのが辛いんだよね~」

「そうそう、1人ダメなヤツがお前のクラスにいるだろ? って聞かれて答えるの面倒くさいんだよなあ」



 神がいるなら救ってほしい。それほどまでに僕は……生きる事が辛かった。

 もちろん死を考えた事だって何度もある。でも結局は死んだ後の事を考えると怖くなって、泣きたい気持ちを抑えながら布団に蹲る毎日だった



「ただいま……」


「おかえりルイ。あらやだ、また背中に変なの付けられてるわよ」


 僕を生んでくれた母さん、そんな母さんに僕が虐められている事、学校に行きたくない事も本当は全部伝えたかった。



(でも……1歩の勇気が出せない。心配になって相談してくれた担任の先生にも言えない。相談した事であいつらからもっとイジメられるのが怖いんだ……)



「ルイ、何か悩みでもあるの? 母さんが良かったら」


「ううん! 何でも無いよ!!」


 母親の言葉を逃げるように階段を駆け、自分の部屋に入ってはすぐにドアを閉めた。

 下を向いたまま、背中をドアにつけて拳を強く握る



「悔しい……」




 悔しかった……。




 父さんや母さん、歴代のアルメリアのように優秀な賢者じゃなくてもいい。

 ただ僕は、落ちこぼれの僕でも居場所が欲しかったんだ――




 僕が楽しく暮らせるような、そんな居場所を。




        ◇    ◇    ◇


「ごめんルイー、屋根裏からレシピ本取ってくれるー? 今日の晩ご飯何にするか考えたいのー」


「あ、うん。いいよ」


 この家の屋根裏は僕の部屋からしか行けない。

 僕は壁にかけてあるハシゴを取り屋根裏へと上る。頭は当たるか当たらないかの天井で、明かりをつけて料理関連の本棚を探した。



「えーっと、これかな……」



 ふと、床に積み重なった本が気になった

 山のように積み上げられていた本を片付けようと思い、1冊1冊手に取っていると――



「うわっ!!」



 目の前が光に包まれ、思わず目を瞑って腕で強烈に襲ってくる太陽のような光を遮ろうとした。

 しばらくすると徐々に消え、何が起きたのかと目の前を見る。



「……ふーっ、久々の外は最高だぜ」




(え!? 誰!?)



 目の前に突然現れたのは黒い帽子、黒いローブと肩まで垂れた長い金髪。

 数百年前の魔女のような格好をした彼女は背中を仰け反らせ、腕を伸ばしては大きく伸びをする。




 突然の出来事に驚いたまま、僕は頭の上に疑問符を浮かべて困惑しながら尋ねた




「えっと、どちら様でしょうか?」


「どちら様ぁ? なんだアタシの事知らないのか?」

「(というかこの子、アタシと顔がそっくりだな……)」


「えっと……」


「なんだあ?」


「その……」


「ああん!? ハッキリ喋れよ!!」



 僕の曖昧な言葉に苛立ったのか、彼女は腰を落として睨み付けるように顔を近づける

 その顔と声に驚き、眉を歪ませ泣きそうな表情で僕は彼女を見ていると、僕の髪がぐしゃぐしゃになるぐらい強く頭をなでた



「ああっ!! やっべえわりぃわりぃ、子供に怒鳴るのは良くないよな! ……アタシはアリッサ・アルメリア。お前の名前は?」



 そう言って手を離す彼女

 僕はボソリ、と。小さい声で答える



「……ルイ・アルメリア」


「えっ……マジ? ちょっと待て母親の名前は?」


 母さんの名前を伝えると、アリッサさんはポカンとした顔からええっ、と驚いた表情に変わり大きく身体を仰け反らせた


「おいおい、じゃあお前!! アタシの孫になるのか!?」


「え、ええっ!?」



 指を指し、驚いた表情でアリッサさんは僕の顔をじっと見る。

 状況がよくわからず僕は疑問の表情を彼女にぶつけ、下に視線を移すとアリッサさんの足が無い事がわかり、幽霊のような姿に僕は驚きの声をあげると、彼女はそんな事気にもせず、そっかそっかと妙に納得しながら何度も頷く



「全部理解した、アタシは孫に呼ばれたんだわ。ああそうだわ、そうとしか考えられねえ」


「どういう……事ですか?」


「んーっとな、つまりだ。ルイの魔力がアタシの事を誰かがとして書き残した本に共鳴したんだよ。で、な召喚魔法扱いになってると思うぜ」


「ぼ、僕が召喚したんです? アリッサさんを?」


「ああそうだ。魔力ってのは人の思いによって量が変わったりもする不明確な原質だからな。いやーアタシんの血筋はやっぱ優秀だなあっ」



 血筋、優秀、確かにそうなのかもしれない

 アルメリア家は大賢者『エレナ・アルメリア』から歴史がずっと続いている



 だからこそそれが僕にとって辛く、重くのし掛かる。

 アルメリアじゃなければ、違う家に生まれていればと、何度も思い浮かべていた



 そうすれば僕はもっと楽に生きれたかもしれないって、アリッサさんや他の先祖の人達には申し訳ないけど、僕はまた下を向いて落ち込んだ。




「なんだあ? どうして落ち込んでるんだよ」


「僕が、落ちこぼれだから……」


「落ちこぼれえ? ルイがか?」


「アルメリア家の汚点だから……生まれてきた事が……嫌で……」


「はあ? まあ、詳しく話を聞かせてみろよ」




 足は無かったけど、アリッサさんはその場に座り込んで僕と同じ目線になってボソボソと喋る僕に対し、きちんと真正面から受け止め、打ち解ける為に何度も優しい声をかけた。


 なぜか僕は涙目になりながら、アリッサさんにこれまでの僕が抱えていた辛い事を全て話した

 その言葉1つに頷き。話が終わるとなるほどな、と一言いって子供のような笑顔を毎回僕に向ける



「……うしっ! それならこの英雄アリッサさんがひと肌脱いでやるか!!」


「えっ、どういう事ですか?」


「まあ見ときなって、要するにだ! ルイをイジメないようにお仕置きをしたらいいんだろ?」


「だ、ダメだよ!! そんな事したらもっとみんなから虐められる!! やめてよ!!」



 ポリポリと手で頭をかくと、一瞬呆れた顔でアリッサさんは僕を見てすぐに真剣な表情へと変わった。



「……あのなあ、それじゃあまた虐められるだけだぞ? みんなは笑ってるけどルイはずっと辛いだけなんだぜ? ルイが動かなきゃなーんにも状況は変わらねェよ」


「でも……僕は落ちこぼれだから……」


「関係ねえだろ、落ちこぼれだからなんなんだよ!! 落ちこぼれだから自分の好きに生きちゃダメだってのか!?」


「それは……」


「いいかよく聞けルイ。大事なのはお前が一番何をしたいかだぞ!! 他人がそれを邪魔する権利なんてどこにもねえんだよ!!」



 僕の両頬をアリッサさんは両手で強く、挟むように手に力を入れた。



「いいか、お前はアルメリアの血を引いている。それはもう変えられない事実なんだ」

「でもな? だからと言ってとかってのは他人じゃない、最終的にルイが決断する事なんだぜ」


「僕が……? 決断する……?」


「そうだ、最終的に生き方は自分で決めるんだ。他人じゃない! 他人なんて1つの道を示すだけで、選ぶのはルイだ」

「ちなみにアタシも魔法なんて全く使えなかった、ルイと同じだよ」


「ええ! アリッサさんが!?」


「おお、周りから君は劣等生だとか、話した事も無い他人に言いたい放題言われて、色んな人達に比べまくられたよ。現実が嫌になったアタシは木の下で座り込んでさ、立てた膝に顔をつけて落ち込んでいたんだ」

「そしたら母親のエレナさんは黙って隣に座り、アタシに優しく言った。何か1つでも自分が誇れるモノがあるなら、それでいいのよアリッサ……ってな」




 アリッサさんが魔法が全く出来なくて落ちこぼれ?

 でも全然そんな風に見えないのは何でだろう。




(アリッサさん……。僕と同じで、みんなの期待を背負わされてたんだ)




 辛かった、だろうなあ。

 苦しかったんだろうなあ。


 


 アリッサさんは頬から手を離し、膝を畳んで僕の隣に座る




「だから剣術のみを極めたんだよ、そしたら周りはようやくアタシの力を認めてくれてさ、アタシ自身を見てくれるようになった。アタシの居場所は自分の力で勝ち取ったんだ」


「……」


「だからルイにも出来るって!! 楽しく考えようぜっ! まだまだ若いだろ? 他人なんかに言われてヘコむな! 自分らしさってのを他人に証明していこうぜ!!」


「う……うんっ!」


「ルイー? あんた誰と話してるの?」


「わっ!!」



 母さんがハシゴを登り、ピョコと顔を出して僕は思わず慌てた声を出してしまった

 アリッサさんは手を振って母さんに挨拶するが、全く気付いていない様子で僕に向かって早く持ってきてねと言って母さんは顔を引っ込める



 多分だけど、召喚した本人にしかアリッサさんの姿が見えないのだろう。



「……大きくなったなあ娘も、ほんっと顔はルイとそっくりだ」



 アリッサさんの顔は嬉しそうでもあり、同時に寂しそうでもあった。



「もっといたかったな。お互いさ……」


「えっ……と、アリッサさんと母さんは離ればなれだったの?」


「ん? ああ、そうか。本の最後に書いてあるよ私の結末、今は召喚されてっから後で読んでみ」


「う、うん」



        ◇    ◇    ◇


 次の日の朝、幽霊であるアリッサさんは当然他の人達には一切見えず、父さんも気付かずに魔法研究所へ出勤してしまい、母さんは行ってらっしゃいと手を振る。


 僕はまた、みんなにイジメられる事を想像しながら重い足取りで魔法学校へと向かった

 胸はズキズキと痛み、緊張からか汗が止まらなかった


「大丈夫だよ、アタシがついてるって!! びびんなルイ!!」


 浮遊しながらアリッサさんは僕の隣で励ますが、不安は拭えない。


「……アリッサさん、絶対にクラスの子に乱暴しちゃダメだからね」


「わーってるって何度も聞いたよ。……ったくこういう所も娘そっくりだな、自分が傷ついてばっかりで誰かに報復しようとは考えない、アタシには考えられないね」




 アリッサさんはやられたらやり返すのが当たり前だろ、と拳を受け止めるように手をパンと鳴らすが、僕は誰かに嫌な思いはさせたくなかったんだ。


 でも……だからと言って自分が受け止めてばかりだったら、自分の心が傷ついていくだけなんだってアリッサさんは教えてくれた




 それなら僕らしさをみんなに見せるんだ、ただの落ちこぼれじゃないんだってみんなに納得させればいい。



(授業表通りなら確か今日は水の魔法実習だ)



 作戦はシンプルで、アリッサさんがタイミングを見計らって僕の身体に憑依して水の上位魔法を見せつけるという内容だ


 もちろん剣術のみを鍛えたアリッサさんがそんな上位魔法を使えるのか尋ねると、まあ見てな、ああ大剣を背中に担ぐように、と昨日言ってから細かい事は何も答えてはくれなかった。




(うーん、果たして上手く行くのかな……? もっと虐められそうで凄い不安だよ……)




「水の精霊よ、我に力を貸したまえ、ウォータードロップス!」



 クラスメイトが庭へと出ると、それぞれが覚えてきた水の魔法を披露し、その出来具合を先生はチェックをつけて一番大きな水を発生させた生徒には全員が拍手を送った



「はい、じゃあ次はルイくん」



 来たか、誰かが言った一言を皮切りにクラスメイト達はニヤニヤと笑い、何かを期待する目を向ける

 そう、僕が失敗する光景がみんなは見たいんだ。


 僕が失敗してみんなは安心感を得たように笑い飛ばし、出来ない子だって僕を罵倒する。

 黙ってみんなが期待する目線を僕は受け入れながら、心臓の高鳴りに汗を垂らしてゴクリとツバを飲み、1歩前に足を進めた



(アリッサさん……力を貸して、お願い!)



 アリッサさんは後ろから僕の両肩を掴むと、湯船に身体を沈ませるようにゆっくりと僕の身体の中へと入っていく……


 頭の中でドンッという何かを叩いた音が聞こえ、一切の身体の自由が効かなくなると、僕の意識は引き剥がされるように外へと出た




「オラ早くしろよルイー!!」

「どうせお前じゃ無理だって、チョロチョロって手の平から水が出るくらいだろー!!」




 ゲラゲラと笑うクラスメイト達を見て、ルイの表情は怒りの顔に変わった事に僕はぞくりと不安を覚えた




「……テメェらなあ。いいぜ、実戦でも使えるってのを教えてやるよ」


「本物だってよ!! おいみんなしっかり見ておこうぜ!!」




「――ああ、しっかりと目に焼き付けとけ。ガキ共」




 アリッサさんはルイが担いでいた身長分ぐらいの大剣を鞘から抜くと、引きずるような体勢で構える

 それを見てクラスメイトは指を指し、中にはゲラゲラと腹を抑えるように大笑いをした



「おいおい! 魔法つってんのに剣だってよ!! 課題の内容がわかってないんじゃないか!?」




 アリッサさんは目を閉じ集中すると、周りの声にも気にせず――




「おらよぉっ!! 巻き起これぇええ!!」




 思い切り水平に大剣を振った。

 台風のような風音を鳴らし、竜巻のように大きな風の渦が目の前に発生するとアリッサさんは手の前に差し出し




「水の精霊よ、我に力を貸したまえ……。ウォータードロップス!!」



 さすがに他のクラスメイトとは違ってアリッサさんの手から発生したのは太く強い水流であったが、これは上級魔法ではなく、下級の魔法だった


 え、上位を見せて驚かせるんじゃ。と僕はルイに対して不安を抱き、先生とクラスメイトは腰を落として目をパチパチとさせる



「な……なんだこれ!?」



 1人のクラスメイトが驚きの声をあげ、ルイは剣を肩に担いで自信満々の表情で答える



「強い風圧によって発生させた竜巻に水魔法を混ぜた、アタシ流のってヤツだ。どうだい先生、満点で文句ねえだろ? ねえよなあ?」



 脅されたようにコクコクと頷く先生、僕は慌ててルイの身体へ飛び込み元に戻ろうとする



「あ、おい何すんだよルイ! アタシは本物の水魔法をだな!」


(いいから僕の身体から出て行ってよ!! 上位の水魔法って言ったじゃん!!)


「だからアタシなりの水魔法をだな……!!」



 抵抗するアリッサさんを引っ張るように僕はルイの身体から出そうとした。

 最悪だ、これじゃあクラスメイトのみんなも先生からも全然やり方が違うぞ。ってバカにされちゃう

 やっぱり僕は落ちこぼれのままで良かったんだ……。



(助けてもらいたいとかアリッサさんに頼むんじゃなかったよ! もう出て行って!!)


「なっ……アタシはなあ……!!」

「……わかったよ、余計な事して悪かったな。ルイ」



 アリッサさんは申し訳なさそうにそう言うと、身体は元へと戻り手も足も自由が効いた僕はすぐにみんなに頭を下げる。


「ごめんなさい! えっと、今のは普段の僕じゃなくて――」



 驚いた表情のまま、クラスメイトの1人が口を開いた



「っげえ……」


「だからその、なんて言うんだろうえっと……。僕の身体に先祖の人が乗り移ってて……」


「すっげえよルイ!!」


「だからあれは僕じゃないって言うか……えっ?」


「今の魔法!! どうやったんだ!?」


「え、ええ?」



 よくわからなかったけど、水魔法の混じった大きな台風は消え去り、全員からパチパチと拍手の音が巻き起こる

 称賛するような顔でみんなが見つめた。先生も拍手をするとさすがはアルメリア家の者ですね。と僕を褒めてくれたのが恥ずかしくなってしまい



「ああっとその……きょ、今日は失礼します!!」



 学校から逃げるように僕はその場を去って走った。

 生まれて初めてのみんなの優しさが嬉しかった


 僕という人間が認められたような気がした、一瞬だけここに居てもいいのかなと思ってしまった。

 全部アリッサさんのおかげだ、さっきは誤解して怒鳴ってしまった事を謝らなきゃ――



「アリッサさん!!」



 家へ向かって走りながらアリッサさんの名前を呼ぶ。

 でももう、彼女は僕の目の前に現れなかった



「アリッサさーん!!」



 何度も何度も名前を呼ぶ、変われる勇気をもらえたのはアリッサさんのおかげだ

 死にたくなるほど行きたくなかった学校で、僕が認められた、凄いって彼女のおかげで褒められたんだ。



 だから、さっきの事をごめんなさいってもう一度アリッサさんに会って謝りたかった

 ありがとうって伝えたい、僕の傍にまた居てほしい、希望の光を求めるようにアリッサさんの名前を呼び続けていると、見つからないままとうとう家の前へと辿り着いてしまった



「はあ……はあ。そうだ、屋根裏なら!!」



 母さんがもう帰ってきたの、とびっくりして挨拶するけど、僕はまずアリッサさんがどこにいるか知りたかった。

 ハシゴをかけて屋根裏に上る、2人が出会ったあの屋根裏に――



「はぁ……はぁ……いない」



 息を切らしながらヘタリ、と力が抜けて僕は座り込んだ。

 もうアリッサさんは成仏してしまったのかもしれない



 ……取り返しのつかない事を言ってしまったのに涙を浮かべ、僕は泣いてしまった。



「アリッサさん……」



 もう一度、彼女に会いたい。

 会って話がしたい、ありがとうって感謝の言葉を伝えたいんだ。




 その時、暗い屋根裏で1冊の本がキラリと光った。



「あれは……」




 アリッサさんが飛び出してきた本だ、明かりを付けた僕はその本を凝視する




「んっとな、つまりだ。ルイの魔力がアタシの事を書き残した本に共鳴したんだよ。で、な召喚魔法扱いになってると思うぜ」



 アリッサさんの言葉を思い出した、そうだ――!!



(召喚が解除されたなら、彼女はまだ本の中にいるはずだ!!)



 僕は急いで本に近づき、ペラペラとページをめくる

 そこに書かれてあったのは……





 ――ルイへ


 可愛い孫の為に役立ちたかったんだけど、邪魔になったみたいで悪かったな。

 アタシこういう文章書くの苦手だからさ、短くまとめるぜ。んーとな!


 とにかく周りの声に屈して自分を曲げるな、貫き通せ! 負けんな! 気合いだ!!

 アルメリア家は努力を怠らねえ! 当然ルイにもその血は引き継がれてるっ!!


 後さ、もしもう一度アタシと会いたいなら、最後のページを書き換えておいたぜ。

 許してくれるなら……。あーっと、うーん。ま、そんな感じだ!!


 じゃあな、死ぬなんてつまんねえ事考えるなよ! 元気でな!

 娘によろしく頼むぜ、ルイ。


 落ちこぼれの剣士、アリッサ・アルメリアより





 本のページを滲ませるほど、目から涙がポタポタと垂れた。

 アリッサさんは最後まで僕を思っていてくれていた

 それが嬉しくて涙が止まらなかった。



 鼻水をすすりながら最後のページを開けると、そこに書かれていたのは召喚魔法の術式だった。

 もちろん、今の僕にはこれを読むことなんて出来ない



 でもいつか必ず、彼女と再会する為に僕は頑張ってみようと思う。






 だって……僕は努力を怠らないアルメリア家の人間なんだから――

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