第3話 帰宅
教室で健と別れると、僕はまっすぐ帰宅した。
夏休み前ということで授業時間は短縮され、下校時間も早くなる。
まだ昼間のように明るく澄んだ空を見上げながら、朝は地獄のような上り坂を今は涼しい顔で気楽に下っていく。
なぜか、僕の体は行きよりも帰りの方が体が軽い。
気持ちの問題かもしれないが、基本的に旅行も行きよりも帰りの方が元気なことが多い。多分行きは楽しみよりも心配事の方が多いからだろう。極度の心配性な人間。
帰りは心配事が限りになく少なくなるうえに、安心するのかもしれない。
まぁ、端的に言うと家が好きだということでもある。
ザ・インドア人間の鏡かもしれん。と自分を肯定しながら歩いていると、家に到着した。
家から学校が近いというのは、すばらしいと感じながらカギを開け家の引き戸を開く。
「ただいま」
誰もいない家にこだまする僕の声。
僕の家は築50年と古い家。
僕の声は幽霊の声かと錯覚するものも出てくるだろうというくらい低い声。それがすっと
消えて家の中からいなくなる。
吹き抜け感はピカイチの家。
隙間風もある素晴らしい一階の洗面所でうがい手洗いを済ませる。子供の時からの親の教育のおかげで高校生になった今でも無意識に行える様に体が覚えてしまっている。
僕はいつもの帰宅後の習慣を終えると二階の自室に向かった。
ふすまを開けるとそこには僕の部屋が広がっていた。
「ふぁ、つかれた」
と畳に寝っ転がる。全く疲れてなどいないのに、こうするのは儀式的なものなのかもしれない。疲れるほどがんばったということを肯定する事で学校で過ごした時間を頑張ったことにしている自分がいる。
天井からぶら下がる色を失った電球をみて、思いふける。
何ともなしに目をつむると、暗く深淵に落ちていきそうになる。そんか僕をスマホが呼び戻す。
バイブレーションがポケットの中で行われる。
僕は、そっとスマホを取り出すと、画面を見る。
画面には知らない通知がされている。
『マッチングしました』
知らないアプリからの通知。そしてマッチングしましたと知らないアプリが言っている。迷惑メールではなく迷惑アプリか、と思ったがそんなものは聞いたことがない。ネットが普及してきた世の中でもまだ迷惑アプリという言葉はない。
仕方なくアプリを起動した。
そこにはちょっと身に覚えのある表示画面。
そこで健に招待された出会い系のサイトのアプリ版であることが分かった。
まさかアプリまで入れているとは思いもせず、それだけ僕はよくわからずに健に言われた通りしていたのだと思った。
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