第2話 夏休み

蝉のなく声がうっとうしく感じるほど、暑くなってきた今日この頃。

高校生活も二年目に入り、二度目の夏休みが訪れようとしている。

クラスの皆、先生も含めすでに夏休み気分に突入していた。

高校生の夏休みほど気楽なものもないと思う。

なぜなら小学生や中学生みたいに夏休みの宿題が大量にあるわけではないからだ。

一日二日あれば終わる上に、答え付きで出される宿題などあってないようなもの。

高校生の夏というのは、学生生活を順風満帆に過ごせたかが決まる重要な時間。

夏休みに誰と過ごし、何をして楽しんだか、今後の人生の中でも黄金期を担うほど重要だと思っている。

だから勉強などやってる暇は僕たちにはないのだ。


しゅん、夏休みの予定はきまったか?」

「いやまだだけど、たけるは決まったの?」

「あぁ、決まったよ。実はな、ネットで知り合った女の子と会う約束してんだ」

後ろの席の健はそう自慢そうに言った。

今では不思議でもない、ネットで知り合うという行為。

「そうなの? どんな子? 写真とかある??」

「いや、ない。でもかわいい子」

「そんなのどうして分かるんだよ」

「それはほら、文章からかわいい感じが伝わってくる」

と健はいうと、僕にチャットのやりとり中のスマホ画面を見せてくる。

そこには、長文で返す健の文章とそれとは対極的に短い文章でカラフルな絵文字がたくさん乱立した今どきの子の文章が見てとれた。

どうやらやり取りしているのは本当らしい。

名前の欄には『かなこ』とひらがなで女の子の名前があった。

ありきたりな名前だと思った。

これが本当の名前なのかは分からない。

「どうよ、この文章みたらかわいい子だと思わないか。しかもこの絵文字がいっぱいで、ハートまであるんだぜ。きゅーと、だろ」

「そうなのか?あんまり絵文字使う女子はすきじゃないから分からん」

「なぬ、この良さが分からんとは、損な男よの~」

「うるせ」

と僕は言ったものの、本当はうらやましかった。

ネットで出会えるまでやりとりできる健は、やはりネットでのコミュ力が高い。

それに比べて僕は、リアルでもネットでもあまり人とのやりとりは得意ではない。

ネットであろうと、リアルであろうと人の顔を伺ってしまう癖がある。

自分の言葉で誰かが笑ってくれたらうれしいが、笑ってくれなかったり、つまらないとかんじられてしまうのではないか、とか思うとなかなか言葉が出てこない。

こういう考えながら言葉を発する人間は反応も遅くなるし、なかなか正解が見つからずに言葉を発することを辞めてしまう時がある。

大人だったら酒の力で脳みそをおかしくしてしまえば、自然と言葉を発することができるようになると僕は考える。そんな僕は高校生なので酒の力を借りることができないので、早く大人になりたいと思っていた。

実際、そんなことはないのは分かっているが、今の自分を変えることのほうが大変で初めから諦めてしまっているのだ。

そんなコミュ力が乏しく、一部の人間とやりとりするときくらいしか、自然にコミュ力が発動しない僕には、唯一の友達の健と家族くらいしか心休まる場所がない。

こんな僕にも心休まり、自然と話の出来る彼女ができればいいのだが、そんなことは夢にまた夢。


「そうだ、最近出会い系サイトで有名なのがあるらしいぞ」

「出会い系サイトは18歳以上でないとできないから僕らには関係ないだろう」

「そのとおり。詳しいな」

「一般常識」

「お前の一般常識は偏ってるな、特にネットよりに」

「それはどうも」

「でもこれは普通の出会い系サイトとは違うのだよ」

「どこらへんが?」

「なんと年齢制限なく無料、さらにランダムマッチングでチャットができるだけなのだよ」

「無料ほど怖いものはない」

「まぁ、そういうな。お前も彼女ほしいだろう。ほれ、招待してやるから始めようぜ」

「お前、すでにやってるのかよ」

健は僕のいうことも聞かずに招待し、僕は無理やりサイトに登録させられた。

正直いやいやだったが、実際は気になっていた。

おいおい話を聞くと、健もそのサイトで彼女(かなことかいう女の子)とであったらしい。まぁ、まだあってはいないが。

そんなこんなしていると、朝の時間はチャイムと共に終わりを迎えた。


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