第6話

目に映る景色に滲む現とは夢ばかり見て時を過ごさん


僕は地下の研究室でコンピュータを打っていた。世界にその名を知れ渡るスティーブ教授の研究チームの一員となって3日目の事だ。


僕は淡々と仕事をこなしている。

ふとコーヒーを飲み落ち着いた。と思いきや何故かどこかへ行きたくなる。そして泣きたくなる。無性に泣きたくなる。全ての取り巻く世界に違和感を感じてイライラしてコンピュータを持ち上げて壁にかかった余裕をかましている油絵に投げつけたくなる。

取り戻せない時間。遠い遠い過去だ。


でも僕は今アメリカの研究室にいて仕事をしている。何故だ?とも思う。何故?僕はここにいてもふとした瞬間には温かい日差しの中で妻と娘と一緒にいる。

僕はBostonまでの地下鉄を思い出し、ホームから身を投げるのを想像してみる。割れるように頭痛い。ここは一体どこなんだ?分からない…何もかもだ。

高熱が出たみたいにあたりは寒さを増し、身震いがする。怒りー僕は今爆発しそうに負の感情に包まれている。心は何かを渇望してる。単純に癒しとかなんとか言う輩がいたら僕はきっと殴りかかるだろう。


昨日の僕は幸せだった。昨日っていつだっけ?時間の流れさえも分からなくなっている…。


僕は次の瞬間、真っ暗な研究室にいた。電源が切れた真っ黒いコンピュータ画面をただ呆然と見つめて居た。


真っ暗な画面に野の花が咲く丘の公園が見える。

無邪気に満面の笑みをたたえてシロツメクサを摘むゆきの姿を笑いながら見てる。

丘の公園から見える港には遠くで行き交う船の汽笛が聞こえる。


もうどうにもならない思い、この嵐が過ぎ去るまで僕はここにいるしかないのだ。

今ここに存在している僕自身を愛せるまでじっとこの冬を春先のウグイスが鳴くまで待つしかないのだ。


愛する人よ

心のままに歩いてきた道

そっと手を取り歩いた道

2人が分かつ静かな時に

愛を交わした日々よ

別れがやって来たその日に

旅立つ僕の横にいて

穏やかに笑ってくれた

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