魔女と世界の隠し事

「これでいいの?」


「うん。ありがとう、アビー」


 目の前ですやすやと眠っている女王リリィを、魔法で城に飛ばして、魔女は椅子に着く。

 そして、その対面に、ふわりと幼女が座る。


「あんなので、納得するものなのね」


「まああたしのこと出されりゃ、人間たちはどうしようもできないわなあ」


 幼女かみさまはそう言いながらケラケラと笑う。


「まあ、いい加減諦めてもらわなきゃ、互いにとって良くなかったし、いいじゃない」


「まあ、そうね」


「やっぱり、やめておくべきだったんじゃない? ルカにはそもそも向いてなかったのよ」


 その言葉に、魔女ルカは苦笑し、二杯目の紅茶を淹れた。


「本当の隠し事を隠し通せただけ、許してくれない? 私にだって、人の心はあるのよ」


「……人の心があるから、やめとけば良かったって言ってるのよ」


 かみさまはそう呟いて、ルカが淹れた紅茶をぐいっと飲み干した。


「で? あの子はもうこないの?」


「きっとね。道、わかんないようにしといたから」


 ずっとしようとは思ってたけど、今まではできなくてね、とルカは苦笑する。


「……もう、こういうことがないようにするのよ。本当に、ルカには向いてないもの」


 三杯目になる紅茶をかき混ぜながらかみさまは言う。

 ルカの気性とは、相性が悪すぎることを、かみさまは知っていた。


「そうねえ……うん、そうするわ。流石に今回ので懲りた」


 ルカは、紅茶に少しだけ口をつけて、カップを置く。癖になっているのであろうその飲み方を見て、かみさまは目を伏せる。


「……そんなに大切なら、あの子も巻き込めば良かったのに」


「アビー。冗談とはわかってるけど、それは言っちゃダメよ?」


 かみさまの拗ねたような声に、ルカはくすくすと笑いながら釘を刺す。そして、もう一口紅茶を含んだ。


「あの約束は、世界を守るために必要だもの」


「そうだけどさ……いい加減もう解放されたいよ」


「そうねえ……アビーなんてだもんねえ」


 ひとしきり笑って、アビーとルカはに想いを馳せる。


 約束。女王リリィに言ったのとは、全く別の、世界と魔女の約束事。

 世界を混乱させた、10人の魔女への罰。

 魔法という普通の人間には使えないモノを手にし、時には驕り、時には憐れみ、時には非道を行い……。そんな魔女に、世界が罰を与えたのが。たくさんの魔女たちと、世界の隠し事。

 ある魔女は、自然を守ること。

 ある魔女は、人間を守ること。

 ある魔女は、夢を守ること。

 ある魔女は、海を守ること。

 ある魔女は、季節を守ること。

 ある魔女は、動物を守ること。

 ある魔女は、人の技術を抑制すること。

 ある魔女は、空を制御すること。

 ある魔女は、神様の手伝いをすること。

 ある魔女は、すべてを見守ること。

 そして、全ての魔女は、この世界を守るためにその力を使い、魔女以外のものと関わらないこと。

 これが、世界と魔女の約束事。

 これが、世界は魔女に守られているという隠し事。

 約束を破った魔女は、消えてしまう。

 そして、新たに約束を知った人間が、次の魔女となる。


 ルカは見守る魔女、アビーは神様を手伝う魔女で、どちらも初代の魔女。

 もう何百年も、何人もの魔女が消えて、代替わりしても、二人は一緒だった。


「……あーあ、ごめんね、ルカ。神様が呼んでるや。また何かあったら、呼んでね」


「ん」


 二人の魔女は、そうして別れて、互いの日常に戻る。

 ルカは、一人に戻る日々に寂しさを覚えながら。

 アビーは、ルカが消えないことに、心底安心しながら。

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魔女と世界の隠し事 空薇 @Cca-utau-39

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