魔女と世界の隠し事
「これでいいの?」
「うん。ありがとう、アビー」
目の前ですやすやと眠っている
そして、その対面に、ふわりと幼女が座る。
「あんなので、納得するものなのね」
「まああたしのこと出されりゃ、人間たちはどうしようもできないわなあ」
「まあ、いい加減諦めてもらわなきゃ、互いにとって良くなかったし、いいじゃない」
「まあ、そうね」
「やっぱり、やめておくべきだったんじゃない? ルカにはそもそも向いてなかったのよ」
その言葉に、
「本当の隠し事を隠し通せただけ、許してくれない? 私にだって、人の心はあるのよ」
「……人の心があるから、やめとけば良かったって言ってるのよ」
かみさまはそう呟いて、ルカが淹れた紅茶をぐいっと飲み干した。
「で? あの子はもうこないの?」
「きっとね。道、わかんないようにしといたから」
ずっとしようとは思ってたけど、今まではできなくてね、とルカは苦笑する。
「……もう、こういうことがないようにするのよ。本当に、ルカには向いてないもの」
三杯目になる紅茶をかき混ぜながらかみさまは言う。
ルカの気性と約束は、相性が悪すぎることを、かみさまは知っていた。
「そうねえ……うん、そうするわ。流石に今回ので懲りた」
ルカは、紅茶に少しだけ口をつけて、カップを置く。癖になっているのであろうその飲み方を見て、かみさまは目を伏せる。
「……そんなに大切なら、あの子も巻き込めば良かったのに」
「アビー。冗談とはわかってるけど、それは言っちゃダメよ?」
かみさまの拗ねたような声に、ルカはくすくすと笑いながら釘を刺す。そして、もう一口紅茶を含んだ。
「あの約束は、世界を守るために必要だもの」
「そうだけどさ……いい加減もう解放されたいよ」
「そうねえ……アビーなんてかみさまだもんねえ」
ひとしきり笑って、アビーとルカは約束に想いを馳せる。
約束。
世界を混乱させた、10人の魔女への罰。
魔法という普通の人間には使えないモノを手にし、時には驕り、時には憐れみ、時には非道を行い……。そんな魔女に、世界が罰を与えたのが約束。たくさんの魔女たちと、世界の隠し事。
ある魔女は、自然を守ること。
ある魔女は、人間を守ること。
ある魔女は、夢を守ること。
ある魔女は、海を守ること。
ある魔女は、季節を守ること。
ある魔女は、動物を守ること。
ある魔女は、人の技術を抑制すること。
ある魔女は、空を制御すること。
ある魔女は、神様の手伝いをすること。
ある魔女は、すべてを見守ること。
そして、全ての魔女は、この世界を守るためにその力を使い、魔女以外のものと関わらないこと。
これが、世界と魔女の約束事。
これが、世界は魔女に守られているという隠し事。
約束を破った魔女は、消えてしまう。
そして、新たに約束を知った人間が、次の魔女となる。
ルカは見守る魔女、アビーは神様を手伝う魔女で、どちらも初代の魔女。
もう何百年も、何人もの魔女が消えて、代替わりしても、二人は一緒だった。
「……あーあ、ごめんね、ルカ。神様が呼んでるや。また何かあったら、呼んでね」
「ん」
二人の魔女は、そうして別れて、互いの日常に戻る。
ルカは、一人に戻る日々に寂しさを覚えながら。
アビーは、ルカが消えないことに、心底安心しながら。
魔女と世界の隠し事 空薇 @Cca-utau-39
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