「……これを私に育てろと？」

　魔女は、家の前に置かれたカゴに視線を落とす。

　カゴの中には、あたたかそうな毛布と、動く塊。この塊が人間の世界で「赤ん坊」と呼ばれる存在であることを魔女は理解したうえで、頭を抱える。過去、貧困にあえいでいるくせに子供をもうけた夫婦が同じような塊を押し付けてきたことはあった。その度に魔女は適当な施設にその塊をさらに押し付けていたが、今回はそれがきかない。カゴの中で圧倒的存在感を放つブローチは、とある国の王家の紋章を象ったもの。これを施設に送ればどうなるかは、魔女も分かっていた。

「……これは、約束を破ったことになる？」

　魔女はそう呟いて、空をじっと眺める。

　そうして、目を伏せて、魔女はカゴを手に取った。

　世界との約束を破らないと、知ったから。