瑞夢の終わり

 彼女に恋をして一週間。

 僕は体調を崩し気味で、学校に行けないでいる。これが恋煩こいわずらいというやつなのかもしれないが、初めての事なのでよく分からない。

 この一週間、長いようで短かった。気付けば彼女の事を考えていたし、会いたいと思っていた。

 でも、このまま彼女と会えば自分が何をしてしまうか分からない。だから会うわけにはいかなかった。

 とはいえ、そろそろ宿題や配布物を取りに行かなくてはいけない。放課後に取りに行ってもいいのだが、先生に顔を見られて「元気そうじゃないか」なんて言われてしまったら説明がつかない。「恋煩いです」なんて言うのも恥ずかしい。

 つまり来週明けは通常登校をする必要があるという訳だ。

 この週末の間に、気持ちを抑える術を身に付けなければいけない。実を言えばもう出来るのだが。

 気持ちを殺すのは簡単だ。何も感じなければいい。いつも通り虚無を纏うだけだ。そうすれば自然と平静になる。

 だが今はしたくなかった。それをするのは登校日の明後日で良い。まだこの不思議な感覚に呑まれていたい。

 ご飯を食べている時、風呂に入っている時、テレビ番組を見ている時。いつでも脳裏には彼女の笑顔が浮かんでいた。冷静に考えれば気持ちの悪い事この上ないが、どれだけ思考を止めようとしても、止まってくれなかった。

 今頃彼女は何をしているのだろう。テレビ番組を見ているのかな。眠っているのかな。彼女の事を考えるだけで心が踊る。

 そんなとても幸せな思考を遮ったのは、僕の欠伸だった。そういえば昨日もよく眠れなかったっけ。最近は二時間睡眠が習慣になってしまった。

 眠れないのだ。どうしても。別に何かしている訳ではなく、布団に入って何時間しても眠れないだけ。だから眠たくなるまで夜空を見上げて過ごす。いつも眠気がやって来るのは月が西に傾き始めた頃。

 折角の幸せな時間を遮られてしまい、陰鬱な気分になってしまった。ただ、もうすぐ午後5時だ。相変わらず彼女の事を考えていると時間が経つのが早い。今日と明日は明後日に備えて早めに眠るとしよう。

 風呂に入り、軽い夕食をとる。その後すぐに布団に入った。午後8時。このまま眠れたら健康で良いのだが、そう上手くはいかない。

 しかし他に何かしたいことも無いので、無理矢理目を瞑ってみる。うんうんと唸りながら何度も寝返りを打つが、一向に眠れない。

 仕方ない。今日もベランダに出よう。いつものように夜風を浴びよう。

 いつもよりほんの少し朦朧としながらベランダに向かう。閉め切ったカーテンを開き、

 直後、世界が反転した。自分がベランダから落ちたと認識するのに時間は要さなかった。


(落ちた……死ぬ……!)


 そう思った。でももう何も出来ない。重力に逆らうことは出来ない。


 刹那、強い衝撃と鈍い音と共に意識を失った。

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