第7話:ようこそ我が家へ

ようこそ我が家へ



「やほー、今日はよろしくー」

「あの、よろしくね」


そう言って俺たちに挨拶をしているのは、ロボット大好き、プラモ大好きの静紀小夜。

そして、学園のアイドルといわれている桜乃春香だ。


「おー、誰か連れてくるって言ってたけど桜乃だったか」

「そうだよー。というか、あの流れで春香以外を連れてこないって」

「急にごめんね」

「いやいや、大丈夫でござるよ。ちゃんと誰が来てもいいように準備していたでござるから」


なぜか俺が答える前に園田の方が答える。

いや、準備一緒にしてくれてたから何も問題はないんだが、俺の家にくるんだから何か違わないかと思っただけだ。

園田は俺の裏事情をしり、桜乃たちの背景も知っている稀有な存在だ。

これぐらいのフォローをしてくれた方がいいか。


「そうだな。桜乃には世話になっているし、家でおもてなししても罰は当たらないだろう。ということでさっさと行こうか。暑いし」


外でダラダラと話すのはつらい時期だ。

夏の日差しがビシバシと肌に刺さる。


「そうえいば、叶君、英雄君、期末テストの勉強ってしてる?」

「ん? ああ、普通に」

「やっているでござるよ」

「え? マジ?」


桜乃の質問に答えると、なぜか小夜の方が驚いた顔をする。


「小夜? どうかしたのか?」

「え、いや、ううん。なんでも」


明らかに何かあるだろうという返事だ。

そして横にいる桜乃は目をじとーっとして。


「ほら、叶君も英雄君もちゃんと勉強しているんだから、小夜も勉強しないとだめだよ」

「いいじゃない。別に赤点取っているわけじゃないし」


なるほど、どうやら小夜はあまり勉強は得意ではないらしい。


「ま、人それぞれなんだしいいんじゃないか?」


俺はとりあえず小夜のフォローをしておく。


「いいこと言った! 春香人それぞれなんだよ?」

「むー。あまり成績が悪いと一緒の大学いけないよ? 約束どうするの?」

「ううっ」


そういう約束をしているわけか。

それなら、ちゃんと勉強はしておいた方がいいな。

とはいえ、まだまだ高校の最初だそこまで気合入れて勉強するか?

とは思うが、やるやつはやる。

東大に入るために中学から小学からしっかり勉強詰めの人生を送っているやつは確かにいるが……。


「2人が行こうとしている大学ってそんなに難しいところか?」

「ううん。普通に勉強していれば通るかな? でも……」


そう言って桜乃は横にいる小夜に視線を向ける。


「ああ、確かに赤点ギリギリではあっちの大学は難しいでござるなー」

「うぐぐっ」

「はい。だからちゃんと勉強しようねー」

「あーもう、わかったわよ。その時は叶と英雄も一緒やるから」

「「え?」」

「そうだね。雛菜先生も心配していたし、私が3人まとめて面倒見て上げる」


なんで俺たちが巻き込まれた?

いや、俺たちを巻き込むことで桜乃の指導集中を防ごうというのは分かるけどな。

今の雰囲気を見れば結構厳しいようだ。

いやー、面倒見のいい学園のアイドル。

これはモテると思う。

俺は全然興味はないが。

というか、幸山先生との会話をそう取られたか。

いや、今後の関係性を保てるいいきっかけだから利用させてもらう。


「そうだな。一人でやるよりはマシかもな。園田」

「そうでござるな。どうしても一人でやるとゲームとかをしてしまうでござる」


確かにその通りだ。

一人だとつい執筆とかゲームになるからな。

そういう意味でもいい機会だろう。

と、そんな雑談をしながら歩いているとようやく我が城へとたどり着く。


「ふわー。この家ってすごいねー」

「本当にね。どんな人が住んでいるのかしら?」


桜乃と小夜は我が城を見て驚いている。

俺の家は基本的に塀は備えておらず、外周から家が見放題だ。

何せ空いている一帯の土地を買い取ったからこうしてポツンとあり、ちょっと隣の家までは少し距離が開いている。

おかげで玄関までの距離も遠いというのが少し悩みどころだよな。

いや、車を数台おける余裕があるからこれはこれでいいのか。

そんなことを考えつつ、自分の敷地へと進んでいくと……。


「え? ちょっと叶君!? そこって多分あの家の土地だよ」

「奥の家が叶の家? でも人の土地を横切るのはどうかと思うわよ?」


どうやら二人には俺の家はお隣さんの通常の一軒家だと思っているようだ。

確かに、普通はそう思うよな。

とはいえ、事実は違う。

正直説明しても信じてもらえそうにないので、そのまま自分の家へ進んでいく。


「叶君!? そういうのはだめだよ!」

「そうよ。怒られるわよ!」


2人は慌てて俺を止めようとするが、それを無視して、ポケットからカギを取り出し玄関のカギを……。


ガチャ。


と、空けてドアを開ける。


「「え?」」


その事実を見て呆ける2人。

とりあえず、振り返って……。


「ここが俺の家だから」

「「ええーーー!?」」


ご近所迷惑とか言ってた2人がいま一番ご近所迷惑なことをしているという自覚はあるのだろうか?

そんなことを考えつつ、とりあえず玄関にかけている喫茶店モドキのカギをとって、隣の喫茶店モドキのカギを開ける。


「ほら、こっちだ。園田準備頼む」

「任せるでござるよ」


園田はさっさと喫茶店モドキの中に入って女性を出迎える準備を開始する。

俺は呆けている2人を何とか家の前からこちらまで引っ張ってくると……。


「え? なにこれ、喫茶店? うちのより大きいよね小夜?」

「えーと、うん多分。というか、なによこれー!?」

「そうだよ! この家って何!? 叶君説明してよ!!」


やっぱり近所迷惑な2人だが、驚くのもわかる。

しかし、放っておくとお隣さんから奇異の目で見られることになるので、いったん落ち着かせよう。


「とりあえず落ち着け。ご近所迷惑だ」


ストレートにご近所迷惑だと伝えると流石に2人も大人しくなる。


「むむっ」

「確かにそうだね。とりあえずお邪魔します」


そういうと2人はようやく俺の喫茶店モドキへと入ってくる。


「冷房が効いてくるのはもう少し後でござるから我慢をお願いするでござるよ」


そう言って園田が用意してくれたお茶をもって出てくる。


「どこに置くでござるか?」

「そうだな、あっちのテーブル席でいいだろう。冷房も届きやすいし、いいか?」

「あ、はい。大丈夫だよ」

「とりあえず、席に付かないと話もゆっくり聞けないものね」


ということで、俺たちはテーブル席に座って園田の用意してくれたお茶を飲む。

冷えたお茶が喉を潤して生き返る気分だ。


「それで叶君。この家って……」

「うん。説明してもらうわよ。なによこの喫茶店」


2人もお茶をのんで多少落ち着いたのか、声を荒げることなく俺にこの場所は何かと聞いてくる。

とはいっても、俺としてもちょっと返答には困るんだよな。


「説明としては不十分だとは思うが、単刀直入にこの家は俺の家で間違いない。な、園田」

「そうでござるな。間違いなく、ここは叶殿の家でござる。ほら、ちゃんと鍵を持っていたでござろう?」

「確かに、え、叶君の家ってお金持ち?」

「あー、確かにプラモ沢山買ってたもんね」

「お金持ちなのは間違いないが、そこらへんちょっと勘違いがあるんだよな」


正直俺の職業を言うかどうか悩んではいたが、やっぱり予定通り俺は近くの本棚から小説をもってきて机に置く。

全巻持ってくるとか面倒なんで、とりあえず一巻ずつ持ってくる。


「なにこれ? 小説?」

「春香、知らないの? この小説アニメ化しているのもあるし漫画化もしているやつだよ。ほら、この前園田から教えてもらった小説家になろう。その中でアニメ化までした人だよ」

「へー、あの悪役令嬢と同じぐらいすごいじゃない。で、なんでこれを?」

「あ、そういえばなんでこの小説を今だすわけ?」


不思議そうにこの小説を出したことを聞いてくる。

ま、普通本人がいるとは思わないよな。

だが、話さない限りが話は進まないのでとりあえず。


「この本の作者、俺なんだよ」

「「へ?」」


2人は何を言っているのかわからないように呆ける。

これはたいていこうなる。

本を出されて作者ですといっても信用はできないだろう。

何言ってんだお前という感じだ。

まあ、これは分かっていたので園田に支援をお願いするために視線を向けると……。


「本当でござるよ。叶殿は必勝ダンジョン運営方法の作者であり、その収入を使ってこの家を建てたのでござる」

「「ええーーー!?」」


園田のおかげでようやく真実だと気がついた2人は大声を上げて驚いている。

本当にご近所さんの迷惑なってないといいんだけどなー。



「見たことのある出版社からの手紙。すごい……」

「うわ……。金額がゼロが一杯」


驚きからしばらくたって、俺はとりあえず振込明細などを見せて更なる証拠固めをしている。


「ま、ということで、この家は俺が稼いだお金で立てたアトリエってわけだ」

「はー、すごいんだねー。でも、なんでここは喫茶店?営業はしていないみたいだけど?」

「営業はしていない趣味でそういう風に作っただけだ。ここで執筆とか作業するんだよ」

「うん、正直。その発想が私には理解できないわ」

「いや、小夜にはわかるはずだ。こっちとかな」


俺はそう言って席を立ち、この喫茶店内にある扉を開ける。


「ま、まさか」

「え? 小夜?」


小夜はふらふらとしながら俺が明けたドアに近寄り、奥を覗く。


「ふひぁぁぁぁぁ!?」

「ひえっ!? え、小夜、どうしたの!?」

「て、天国が! 天国が存在している!?」

「え? え? って、ただの倉庫じゃない? あ、でもお店っぽい?」


同じように部屋を除いた桜乃は特に驚くことはないというのだが、それは桜乃の趣味でないからそういう風にしか見えない。

しかし、小夜にとっては……。


「プラモ屋が家に存在しているのよ! ただの倉庫じゃないの! 夢の再現よ!」


意外とプラモにかなりの情熱を捧げているのか、異様なほどに熱狂している小夜。

とはいえ、小夜の言う通り俺の家は文字通り趣味の家というわけだ。


「これがこの前言っていたプラモ専用の部屋ってやつだな。右側のプラモは好きに作っていいぞ、出来たからアクリルケースの中に飾ってくれ」


そう、このプラモ倉庫はお店のようにレイアウトしてはいるが、まだ商品展示のアクリルケースの中はほとんどプラモが飾られてはいない。

俺や園田が時間があるときにぼちぼち作っていくという方法をとっているからだ。

ここに小夜が加わればもっと展示物は増えるだろうと思っていたからこそ、小夜の我が家来訪を受け入れたというのもある。


「それ本当? あと家のプラモも持ってきていい?」

「ああ、見ての通り場所はガラガラでな。小夜さえよければだが」

「いいわよ! むしろ喜んでおくわ! 飾る場所なんてなくて困ってたし!」


だよなープラモを作る人にとって問題になるのは飾る場所と箱をどこに置くかだからな。


「えーと、私が仲間外れなんですけどー」


おっと、桜乃を放っておくのはよくないな。


「とりあえず、お菓子とか買ってきてるからのんびり食べながら雑談するか」


ということで、俺たちはのんびり休日を過ごすのであった。




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俺は愛を貫く 雪だるま弐式 @thesnowman

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