第5話:話が盛り上がる

話が盛り上がる




「いいねぇ。この箱のデザインも素晴らしい」


そう言いながら箱を眺めているのはこの喫茶店「ホリデー」を切り盛りする店長さんだ。

俺たちと同じプラモ同士らしく、俺たちに美味しいコーヒーを提供してくれたあとは席を一緒にして新しく出たプラモデルを開けて喜んでいる。


「どうよ。おじさんは今回見送るって言ってたけどいい出来よ」

「そうだね。いやぁ僕も買えばよかったなー」


そう言われてはここは同じ同士としてやらねばなるまいて。


「おじさん。こちらをどうぞ」


俺はそう言って多めに買っていたプラモデルを差し出す。


「え? いや、これは君が買ったものだろう? 僕はまた別の日に買いに行くよ」

「いえいえ。こうして同じものを沢山買っているので問題ないです。こういう時のために買ってましたからね」

「そうでござるよ。おじさん。遠慮なくもらってください。叶殿は出したら下げませぬから」

「なるほど。君も相当な好き者ってわけだ。じゃ、遠慮なくいただくよ。代わりに今日のコーヒー代は無料にしておこう」

「はい。ありがとうございます」


ぶつぶつ交換というわけでもないが、子供にものを譲ってもらうというのは大人の立場上心苦しいものがある。

だからこそコーヒーを無料としてくれたのだ。

まあ、このおじさんの態度を見ると小夜の友達ということで無料にしそうな感じがあったから、これはこれで良かったのかもしれない。


「あ、そういえば、小夜ちゃんと同じ学校なら私の娘とも同じってことだよね?」

「「はい?」」


いきなり話を振られて首をかしげる俺たち。

おじさんの娘さんも園宮高校に通っているということだろうか?


「おじさん。名前言ってないからわかるわけないよ」

「ああ、それもそうか。私は桜乃大志というんだ。娘の名前は桜乃春香。しっているかい?」

「しっているもなにも、同じクラスですね」

「そうでござるな」

「そうそう、この2人って春香が言ってた二人だよ」

「ああ、君たちが……」


なんか小夜とおじさんが納得しているが、桜乃は俺たちのことをなんて伝えたんだ?

というか……。


「小夜と桜乃さんは友達だったのか。学校では一緒にいる姿は見たことはないな。園田はあるか?」

「いいや、拙者はないでござるな」

「そう? 結構私は春香とは食事一緒にしてたりするよ?」

「あー、昼食とか教室でパパッと済ませるからな」

「学食は基本少な目でござるな。それで、おじさんは拙者たちのことをどんなふうに桜乃殿から?」


うん、園田の言う通りどんなふうに伝わっているのか気になる。

今後、桜乃とのかかわりも方も考えないといけないからな。


「別に悪い意味じゃないよ。いや、悪いのかな? お父さんみたいな趣味の子たちが同じクラスにいるってね」

「「あー」」


なるほど、父親と同じ趣味をしているというのは間違いない。

こうして語り合えているのだから。

何より、俺と同じファーストがメインで好きだからなおのことだろう。


「ふふっ。おじさん、相変わらず春香にロボットの話とかしているでしょう? 私に愚痴ってたよ」

「あはは……。いや、私としては普通に話してるだけなんだけどねー。どうも春香はこの趣味は理解してくれないようだ」

「春香は私と違って普通に女の子だからね」

「まあ、女の子が見る者じゃない気はするよな」


ロボット系は基本的に男の子向けではある。

とはいえ、それは昔の話。

今ではいろいろな趣味があるからロボットを女の子が好きでも何も問題はない。


「小夜ちゃんみたいにロボットが好きになってくれないかと思ってねー。そういえば小夜ちゃんがロボットをどうやって好きになったんだい? それをやれば春香も……」

「あ、それは俺も聞きたいな。小夜がロボット系に興味を持った切っ掛けって何なんだ?」

「そうでござるな。それは気になるでござる。おじさんの野望に関してはどうかとおもいますが」

「ええっ? 駄目かい?」


人に趣味を押し付けるのはどうかと思います。

好きなものは好きなるんじゃなくて、勝手に好きになっている物なのです。

まあ切っ掛けではあるでしょうが、嫌がっているなら無理にするのは違うとは思うな。

と、思っていると……。


「ほかに私もやりたいことがあるの! 小夜みたいに好きならともかく、お父さんの話はつまらないからね」

「ぐふっ」


唐突に表れたお店のエプロンをした桜乃が現れておじさんに止めを刺していた。

本人としては必死に思いを伝えようとしていたのだろうが、その答えがつまらないというのは結構来るものがあるよなー。


「よ、桜乃お邪魔してる」

「お邪魔しているでござる」


とりあえず、俺たちはおじさんにかける言葉はなく、普通に挨拶をしておく。


「あ、うん。いらっしゃい。小夜から連絡来ておどろいたよ」

「なに!? 小夜ちゃんが春香に連絡したのかい?」

「そうだよ。おじさんにプラモの話するとお店回らないでしょ?」


あー、確かに。

俺たちの外にお客さんはいるのにこうしてお話をしているからな。

まあ、ちゃんと呼ばれれば接客はしているから問題ないと言えばそうなんだろうが、見栄えは悪いよな。


「もー、そうやってお仕事が適当になるのはだめなんだからね」

「すまない、仕事に戻るよ。恋乃宮君、園田君、また時間があるときに」

「はい。その時は是非とも」

「存分にはなしましょうぞ」


おじさんはしぶしぶという感じでカウンターに戻っていく。

俺たちも仕事の邪魔をしてしまったという感じなので申し訳ない気持ちだ。


「それで、2人は小夜に誘われてきたんだっけ?」

「ああ、でもここが桜乃の家だとは思わなかった」

「そうでござるな。普通にロボット談義がしたいといわれてここに案内されたでござるからな」

「普通に雑談するつもりだったからね。春香、嫌だった?」


あー、確かに年頃の女の子の家を特定してしまうというのはちょっと問題があるか?

桜乃はこういうのは嫌うかもしれない。

ということで、俺は桜乃の様子を伺うのだが……。


「別にいいよ。2人ともクラスメイトだし。でも、ロボット以外の話をして貰えると話に参加できてうれしいんだけど?」

「確かに、話に加われないとかつまらないもんな。とはいえ、この4人共通の話って何だろうな」

「そこは、桜乃殿に聞くべきでは? いや、拙者たちと桜乃殿を友人としている小夜殿ならいい話題が見つかるかも」


ということで、小夜に視線が集まる。


「ええ。私? うーん、そうだなー。正直、叶と英雄が好きな話ってロボット以外知らないのよねー。うーん、そうだ。アニメとかは見る?」

「そりゃ必須だな。まあ見るモノは選ぶけど」

「同じく偏りはありますが、色々見ているでござるよ」


ラノベ作家とロボットオタクがアニメを見ないとか呼吸をするなと言っているのと同義だ。

どうやって作家業するんだよと。


「なら、春香が最近見ているアニメで悪役令嬢に転生しちゃったってのがあるのよね」

「ああー、あれな」

「有名なやつでござるな」

「え!? 知ってるの!?」


俺たちの言葉に驚きをあらわにする桜乃。

そりゃ、オタクですし。

何より、同じ出身だしなー。

ネット小説家になりましょうからラノベ化、そしてアニメ化している同じ穴の狢というやつだ。

お互いちょっとしたところで話すこともある。

知らない方がおかしいレベルってやつだ。

とはいえ、俺はみだりに自分がラノベ作家であるというのは言わない。

無駄にトラブルに巻き込まれる可能性があるからだ。

なので……。


「面白いからな。ラノベも持っているし。主人公の性格が好きだ」

「ですなー。発想が突飛というか、今までのパターンとは違うから面白いでござる。畑を作るとか」

「そうだよね! 破滅の運命を避けるためにまず畑づくりっておかしかったー。って、ちょっとまってラノベ? あのアニメって原作があるの?」

「え? 春香知らなかったの? ネット小説家になりましょうってサイトで投稿されていて、それが出版の目に留まってアニメ化したんだよ」

「えー!? それって趣味で書いてたってことだよね? すごい!!」


なという純粋場用のお嬢様であろうか。

ネットすらもあまり見ないのか?

とりあえず稀有な存在に新たなる道を指し示すのも先達の務めだろう。

ということで、サイトを表示してスマホを見せる。


「こらこれが無料で読めるサイト」

「え? むりょう……? 無料なの!?」

「そりゃ趣味で書いているからな」

「普通出版とかしたら消さない?」

「あー、そういうのもいるな。でも彼女の場合はネット版と出版版で多少シナリオが違うから、別々で独立している。ネットはネットで、本は本で楽しめるようになっている」


物凄い気力だといえるだろう。

俺はそういうのは無理。

情報管理ができなくなる。


「へー。私も調べてみようっと」

「ほかにも悪役令嬢ものでおすすめがありますぞ……」

「どんなの?」

「これとか、こういうのは……」

「あっ、そういうの好きかも」


そんな感じで園田がそのまま桜乃にアドバイスを始める。

あいつは俺みたいに専門の仕事がない分そういうところでの情報収集をよくしている。

いや違うな、俺のように好き嫌いがあまりない。

まんべんなく試してみる方なので、俺も園田から進められるとこもよくある。

そして面白いものも多いから、園田はそういう点目利きはできるんだろう。

にらんだものも大半は出版するという物凄い目利きだ。


「なんか、園田って意外とコミュ力高いわね」

「オタク全員がコミュ障ってわけじゃないからな。話が合わないとわかっているからしないだけだよ。それに比べれば、小夜とか桜乃とかは普通のグループにも加わっているからすごいと思うぞ」


社会に順応して無理をしているというのが本当に物凄い。

俺はそういうのはお断りなんでこうして園田とばかりつるんでいるけどな。


「あはは、別にあっちはあっちで楽しかったりするんだけどね」

「俺はそういうのは肌に合わないからな。家でのんびり作業している方がいい」


無駄におしゃべりをして時間をつぶすというのは、俺にとっては悪夢でしかない。

作業をできる時間を奪われてしまうのだ。

そんなことをするより執筆とかゲームをしていた方がいい。

話をしたければゲームしながらでもできるからな。

園田とはゲームをしながら作業をしながら話していることは多々ある。


「家で作業って?」

「ん? ああ、このプラモデル作ったりだな」

「ああ、なるほどね。私もその気持ちわかるかも。でもさ、これだけ買うと置く場所に困らない?」

「心配はいらない。ちゃんとプラモデルルームを作っているからな。そこで飾ってもよし、作ってもよしの空間があるのさ」


そう、プラモ専用ルーム!

いや、簡単に言えばショップみたいにレイアウトした倉庫なんだけどな。

子供の夢である疑似おもちゃ屋さんというわけだ。

金があるって素晴らしい!!


だからこそ、この生活を終らせるような悪夢は必ず止め見せる。

そう心に硬く誓う。


改めて覚悟を決めていると、俺の話を聞いた小夜が目を輝かせて……。


「え、専用ルーム? そんなのあるの!? 見てみたい! ねえ、叶の家連れて行ってよ!」

「え?」


なんか最近の若者ってこういうの抵抗ないんですかね?

年頃の男の家に行くとか。

性が乱れていませんか? じいちゃんちょっと心配です。


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