第4話:仲良くなるための切っ掛け
仲良くなるための切っ掛け
自転車で走ること15分。
歩くと30分以上だろうか?
そんな距離にあるのが……。
「今日も人が多いでござるなぁ」
「ここ一体で唯一の大型モールだからな」
目の間にそびえるのは大きな駐車場を完備して、大きな建物を備える最近進出してきた大型ショッピングモールである。
我が園宮町にできたのはつい4年程前だろうか。
田んぼをかなりの範囲で買い占めて、何ができるかと思えばこんなショッピングモールだった。
通称「フォーラスモール」全国展開をしているところだ。
箱を作って中で販売するお店を誘致するテナントタイプ。
郊外に作って多くの人を引き込む作戦がこの園宮町でも成功している。
自転車で駐車場内に入ると、県外からの車も多数見受けられる。
「別に都会でそろうでござろうに、なんでこっち来るのでござろうな」
「都会だと駐車場に止めるのだってお金がかかるしな。こっちだとお店から遠くなるだろうが、それは都会と変わらんだろう」
「なるほど、おかねがかからない分いいということでござるか。確かに自転車を止めるだけでお金を取られると思うと嫌でござるな」
「そして、あの中で大抵買い物が終わる。都会だとビルからビルへって感じだからな」
「確かにそうでござるな。都会は都会で大変なんでござるな」
「まあ、好きなブランドの服とか、化粧品とかが都会しかない場合があるからあっちはあっちで需要があるけどな。そこまでこだわらないのであればフォーラスモールで十分だ。プラモデルに関してもそうだろう?」
「そうでござるな。と、あそこ開いているでござるよ」
そう言われてその場所を見てみると確かに自転車を置く場所がぽっかり空いている。
俺たちが来る前に帰ったんだろうな。
そこに自転車を止めて俺たちはモールの中へと入っていく。
「はぁ涼しい」
「あーもう外は暑いでござるからなぁ」
「いい加減免許証が欲しいな」
「流石にあと二年は待たない駄目でござるよ」
「速攻取る。車があれば冷房が効いて移動範囲も自由になるからな」
とそんな馬鹿な話をしながら俺たちは目的地へと進む。
このフォーラスモールは意外とコアな店舗も入ってきていて、俺たちが買いに来たプラモデルも有名おもちゃ屋ではなく専門のホビーヤマトというプラモとかグッズとかを完備していて俺たちオタクにうれしいお店である。
「お、来たね。先生」
「それはやめてくださいよ」
「ごめんごめん。予約の商品きてるよ」
お店の人とはすでに知り合いで、俺の小説のフィギアとかも頼んでもらっている。
そしてわかる通り俺の素性も知っている。
「しかし、相変わらず同じプラモを4つも買うとは剛毅でござるなー」
「お前の分もあるから5つだな」
「こっちとしてはありがたいでござるが、どうなんでござろうなそういうお金の使い方」
「俺はいいと思う。お前が無理にお金を減らす必要もないだろう。俺はただ単に改造用、保管用、素組用、予備で購入しているだけだ」
「あはは。それは普通の人にはなかなか買えるものじゃないよ。僕もあこがれるね。で、それはそれとして、いいモデルガンも入ってるけどどうする?」
「え? 本当ですか?」
俺はエアガン、モデルガンも集めている。
サバゲ―をするためにだ。
そんなことを話していると、レジにお客さんが入ってくるのが見える。
「あ、そっちは見てますので、お客さんの対応を」
「悪いね」
店員の人はそういうとすぐにお客さんに向き直りレジを始めるのだが……。
「マジかよ」
プラモデルをもって会計しているのは、静紀小夜だったのだ。
クール系といわれるだけあって黒い艶を放つ腰まで届く長い髪をもち、細い眼は鋭い視線をイメージさせる。
スタイルも桜乃を越える胸にお尻ときたもんだ。
確かグラビアに勧誘されたとか話があったっけ?
「どうしたでござるか? 彼女、知り合いでござるか?」
ぼーっとしていると園田が話しかけてくる。
「あ、いや。彼女が静紀小夜のはずだ」
「え? 彼女が? 今日出た新作のプラモを買っている? しかもマイナー量産機の極地戦仕様を買う女性が? 本当に?」
うん、俺も疑わしくは思っている。
なんでガンダ○のジムの改造機、極地戦仕様買うのかはわからない。
そんな話があったとは思っていないが、あの美人な顔を見間違えるわけもないと思っていると、会計を終えた彼女がこちらに視線を向けて……。
「なに? 私がジム好きだと問題があるのかしら? 女の子でロボット好きって駄目?」
実に腹立たし気にそう言ってきた。
だが、俺たちはそんなことを言うわけがない。
「いや、実に素晴らしい! 量産機はいい! そしてロボット好きに男も女も関係ない! 好きなものを好きっていうのは素晴らしい!」
「そうよね! ジムっていいわよね! なんだ話わかるじゃない」
量産機こそ嗜好!
そしてそれを隠さずに言う度胸。
素晴らしい! 静紀小夜。
こいつは飛躍する。
死なせてはならない!
「あー、叶殿と趣味一緒でござるからなー」
「あはは。彼女もプラモデル好きなんだよ。確か同じ学校じゃなかったかい?」
「え? そうなんですか? そういえばその恰好、学生服?」
「ああ、夏場はブレザー無いからな。園宮高等学校の一年の2組で、恋乃宮叶っていう」
「同じく、2組の園田英雄でござる」
「私は5組の静紀小夜よ。なるほどクラスが離れすぎているから接点なかったのね」
「そうみたいだな。それで静紀もそのプラモ狙いで?」
「ええ。私このシリーズファンなの。帰ってさっそく作るつもりなんだけど……。えーと恋乃宮と園田だっけ?」
「ああー。俺はその名前面倒だから叶でいいぞ」
「拙者も英雄でいいでござるよ」
「じゃ、私も小夜でいいわ。それで時間があるなら少し話でもしない? 知り合いにガンダ○好きでプラモデル好きって友達少なくてね」
なんか意外と積極的だな。
ま、こっちには渡りに船だな。
いや、違うか。
小夜は初めて同士を見つけたわけだ。
好きなものを分かち合う友を。
だからこそ、喜びを分かち合いたいのだ。
その気持ちはよくわかる。
それを無下にすることはありえない。
「そうだな。お互い好きなジムを言うのも面白いな」
「拙者はザク押しなんでござるが」
「ザクかー私も嫌いじゃないけどどちらかというと連邦よりなのよねー。というか英雄って拙者とかござるって言っちゃうタイプなのね」
「あー、嫌でしたら申し訳ない」
「あ、気にしないで初めて見たから驚いただけ。別にいいと思うわ」
だよな。
始めてみると驚くよな。
知り合いでもないとちょっと引くよな。
とはいえ、同じ学校だから、そして同士であるという事実から小夜から嫌悪感を払拭したのだろう。
「それで、話か。フォーラスモールの喫茶店で話すか?」
「あーそれはちょっと。ほらプラモデルもって話しているとか見られると女って妙な噂を立てられるのよ」
「俺たちとはいいのか? 見ての通りオタクだけど?」
「別に気にしないわよ。最近はオタクって関係なくなっているでしょう? 私の友達にもいるわよオタク」
「しかし、そうなるとどこで話しますか?」
「そうねー。2人の家ってどこなの?」
「家? えーと……」
よくわからない質問をするなーと思いつつ、とりあえず隠す理由もないので普通に住所を伝える。
「え? 私の家の近くじゃない。それなら知り合いの喫茶店があるのよ。そこで話しましょう。そこなら問題ないし」
「なるほど。近くに喫茶店があったんだな」
「知らなかったでござるな」
「地元なんて知らないところが色々あるものよ。じゃついてきて」
そういうことで、俺たちは静紀小夜に案内されて知り合いのお店に行くことになるのだが……。
「いや、これは知らなくて仕方ないな」
「方向が全然違うでござるな」
「そっか。2人の家って新住宅側なのね」
「だな。そっちは旧住宅側なんだな」
この園宮町は大まかに4つの区域に分かれている。
簡単に言えば住宅が建っている、住宅街を最近開発した新住宅、そして昔からある旧住宅と別れていて。
市役所や多少ビルがある場所を役所地区、そしてフォーラスモールがある田んぼがある田んぼ地区の4つとなる。
どの地区にもスーパーなどがあるので生活をするのにはさほど苦労はなく、小夜と今まで顔を合せなかった理由も納得だ。
住んでいる区域が違うのでめったなことでは交流がなかったのだろう。
小夜がいう喫茶店も旧住宅側にあるので俺たちは存在を知らなかったわけだ。
「ここよ」
そんなことを考えているうちに喫茶店に到着したようだ。
こじんまりとした個人喫茶店のようだ。
俺のアトリエに置いているお店よりも小さい。
だが、ちゃんと今まで経営してきたのであろうという年季がみてとれて……。
「おお、いい香りでござるな」
「そうよ。おじさんの入れるコーヒーって最高だんだから。さ、入りましょう」
ということで、自転車を止めてドアを開けるとカランカランと音が鳴ってさらにいい香りがする。
中は俺のアトリエにある木製の温かみのあるカフェではなく、どちらかというとバーを思い起こさせるような感じのつくりになっている。
俺のアトリエにも取り入れそうな装飾もあるとマジマジ見ていると奥から人がやってくる。
「いらっしゃい。小夜ちゃん」
「おじさんお邪魔します」
そう言って小夜が頭を下げるので、俺たちも一緒に頭を下げる。
その男性はおひげを蓄えたダンディというわけではなく、とてもやさしい顔をした細身の男性だ。
俺たちと、小夜を見比べて……。
「へぇ。小夜ちゃんが男をね。彼氏かい?」
「違いますよ。おじさん聞いてください。この2人もコレ仲間ですよ」
そう言って小夜は袋の中から例のプラモデルを取り出す。
するとおじさんと呼ばれた彼も顔をほころばせて……。
「ほぉ。君たちも好きなのかい?」
「「はい」」
ためらうことなく返事をする。
隠すことなど何もないのだ。
するとおじさんは親指を立ててサムズアップをする。
俺たちもそれを返す。
「いいねぇ。席はそこを使うといい。飲み物はどうする?」
「コーヒー三つでおじさんのおすすめ。いいわよね?」
「はい。お願いします。是非ともおすすめを飲んでみたいです」
「お願いするでござる」
「わかったよ」
さあ、正直小夜と知り合いになれたことよりも、こうして趣味について話し合うことができる同志ができた喜びの方が何倍も強い。
いいね。だから趣味はやめられない。
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