第3話:俺は自由に生きたいんだ

俺は自由に生きたいんだ



冷房が効き始めて涼しくなってきたカフェ内だが、その一角で難しい顔をしている男が2人。


「うむむ……。なるほど、ほぼ情報なしでござるな」

「まあな。小説の内容で何時何分、住所がどこどこでって始まりは無いからな」


俺たちは「春風の魔法少女」対策会議を開いているのだが、あまりいい案は浮かんでいなかった。

何より、魔法少女になるのを見届けるという最初の目的ですらかなり難易度が高いというのが分かったからだ。


「町中でビルが倒壊、ケガ人が出て魔法少女に覚醒でござるか。それってその寸前まで何も自覚無しでござろう?」

「まあな。怪人が現れて暴れるっていうお約束だな」

「本当にお約束でござるが、やられる側としてはたまったものでないでござるな。テロが防ぎにくいのがよくわかるでござるよ」

「だよなー。とはいえ、ビルがあるような大通りはこの町には限られているとは思うんだ」

「確かにそれはそうでござるよ。近くに都会はあってもここはただの町でござるからな」


そう、この園宮町はそこまで都会でもなく、ビルがあるような場所は限られている。

だから問題ないだろうと思っていたのだが……。


「いや、まつでござる。叶殿はなぜ園宮町での出来事だと判断したでござるか? 小説内で記載があったでござるか?」

「は? いや、ちょっとまて」


物凄いところを突かれた気がして焦ってくる。

まてまて、園宮町と断定できる文章があったから俺は確信があったんじゃないか?

勘違いか? 桜乃が魔法少女になったのは園宮町じゃない可能性がある?

……思い出せ、何か断定する文章が……。


「すまん。思い出せん。冒頭の流れで園宮町での出来事だと思っている可能性も捨てきれない」

「むー。かなりまずいでござるな。そうなるとたとえば桜乃殿が近くの都会出かけた先で出くわす可能性もあるでござるよ? 買い物に行ったとか何か記載はなかったでござるか?」

「いや、買い物の出先なのは間違いないな。その時に巻き込まれる。それだけは覚えている」

「まったく定番みたいな話でござるな。そうだ、関係者から洗い出すことはできるでござるか?」

「関係者?」

「そうでござる。そういった物語の手前、だれか友達と一緒に買い物に出た可能性はござらんか?」

「ああー。そういえば第二の魔法少女になる子と一緒に買い物だったかな?」

「なるほど。第二の魔法少女の素質はそういうお約束のつながりがあったわけでござるな。とはいえ、その生徒の名前は分からないのでござるか?」

「言ってなかったな。確か、静紀小夜 しずき さよ だったか?」

「静紀殿でござるか……。正直分からんでござる」

「だよな。同じクラスでもない女生徒とか把握しているわけないもんな」

「なにせオタクでござるあからな。同士はともかく、趣味でもない人にオタクの話をする気はござらんからな」

「だよなー」


オタクだって相手を気にする。

面白くもない話を相手に永遠とするのは避ける。

楽しいからこそするんだ。つまらないことを強制するのはしない。

そういう距離感の保ち方というのがあるわけだ。


「拙者が効きたかったのは、こういう魔法少女系にはつきもののヒーローはいないのかという話でござるよ。叶殿の話を聞けば拙者も叶殿もモブでござって名前すら出ていないのでござろう?」

「出てないな。だからヒーローか。しかしな、3巻で終わってるからそういう存在がいたかどうかもわからん」

「別にヒーローでなくても大丈夫でござるよ。関係がありそうな拙者たちが話せる男性キャラはいないでござるか?」

「桜乃のお父さんか?」

「もっと話せないでござるよ。ご両親に話を聞きに行くってそれこそもっと面倒でござるよ」


うん、年頃の女の子の父親に娘の予定を聞きだすとか、ただの変態でしかないからな。


「というか、不意に思ったのでござるが。この状況はヒロインであるあの学園のアイドル桜乃殿と関係を縮めるいい機会でござるのだが、これを機に彼女にしてみようという野望があるのでござるか? 割かし、ゲーム内または物語内に入った人物としてはそういうのを狙うのが当たり前でござるが、叶殿も?」

「ない」


俺ははっきりと園田にそう告げた。


「バッサリ即答でござったな」

「俺が爺さんまで生きたって話は聞いただろう」

「確か92歳でござったか。随分高齢でござったな」

「そうそう。その年までいきたんだが、もちろんちゃんと結婚もしたし子供も育てた」

「……なんか転生者、生まれ変わりにしては普通に順風満帆でござるな」

「そこは同意する。別に不遇や不慮の事故でこっちに来たわけじゃない。前世は前世でしっかり生き抜いた。だからこそだ。俺は二度と結婚とか付き合うとかしない」

「いつも言っているでござるな。二次元でちょうどいいと」

「ああ。その通りだ。現実はもっと大変だ。前世の嫁さんが嫌いというわけじゃないが、相手が感情をもつ一人の人ということからちゃんと気を遣わないといけないし、譲歩することは譲歩しないといけない」

「ま、当然の話でござるな」

「漫画やアニメ、ラノベ、エロゲーみたいにずっとラブラブでエッチもし放題なんてのはない。彼らもその後結婚生活で仕事をしつつバランスを保つということをやらなくてはいけないんだ」

「……リアルな話でござるな」

「さらにだ。男の場合、これからどうなるかはこっちの世界わからないが、基本的に男が生活の柱、稼ぎを手に入れないといけないからその責任は重大だ。子供ちゃんと食わせてやらないといけない。俺が小説一本でなくて普通に会社員をやっていたのはそれが原因だ」


いつ終わるともわからない小説の収入なんざあてにはできないからな。

定年までは普通に勤めると決めたわけだ。


「むぐぐぐ、現実は本当に苦しいのですな」

「ということで、俺はいかに相手が美少女だろうが付き合うとか、結婚するとかは視野に入れない。何せ俺にとってはすでに経験したことだ。そんなことより俺は今の環境をつかって前世でできなかったことをやるんだ!」


そう、俺は誓ったんだ。

今世では自由にいきるって。

足枷になりかねない恋人とかお嫁さんはいらないと!

だって、普通に生活できるしなにより……。


「自分で稼いだお金は自分で使いたいじゃん」

「なんかいきなり俗っぽくなったでござるな」

「家族がいると家族のためにお金を使わないといけないんだよ。必然的に俺が使える分も減るんだ。なにより時間という金よりも大事なものも消費しないといけない」

「当然の話ですな。とはいえ、言われるとそこはかとなく嫌な感じがするでござるな」

「まあ、俺は俺の好きなように生きるって話なだけだ。ほかの人の恋愛観とかを否定するわけじゃない。幸せになれるのならそれに越したことはないからな。俺にとっての幸せは今世では付き合うとか結婚じゃないって話なだけ。だから、園田が桜乃や静紀と仲良くなりたないなら喜んで話す役を譲るぞ」

「それは結構でござる。拙者も今の生活は好きでござるからな。彼女に時間を使うというのにちょっと抵抗を感じるでござる」

「それが趣味人の思考なんだよな。普通は彼氏彼女に時間を使うのが一番大切らしいぞ?」

「それは偏った意見ではござらんか? というか、叶殿にそういう意思はないのは理解したでござるよ。運がよければ仲良くなりたいっていうきっかけになるからいいんじゃないかと思っていたでござるが……」

「別に桜乃と仲良くなるのは問題ないが、わざわざっていうのはあるな。それより趣味したい。本来なら今から新作のプラモ買って作る予定だったんだ」

「そいういえばそうだったでござるな。それが魔法少女対策とは大変な……」


はぁー。と二人でため息をついて、もう一口お茶とコーヒーを飲む。


「ともかく、今は彼女たちと接点を作るべきではござらんか? 近くにいなければ何も対処もしようがない。これは避けては通れぬでござるよ」

「だよな。これから問題を解決するには桜乃と静紀の近くにいる方がいい。だが、どうやって機会を作るだな……」

「いきなり仲良くなるのは無理でござるよ。明日から学校で情報収集が一番だと思うでござるよ?」

「確かにな。そうするか、とりあえず物語開始は夏休みに入る直前だったしかどうかだからそれまでになんとかするか」

「いや、いきなりな情報でござるな。もう時間も少ないでござるよ!?」

「とはいえいきなりはできないし。小説内でも期末テストが終わってという一文があったからな。今までのうっぷん晴らしに買い物って」

「なるほど。ひとまずは期末テスト後という期間の指定はござるのであるな。となると一週間は時間がありますな」

「物語通りに進むならな」

「とはいえ、一週間で仲良くなれるかは……」

「それを言い出したら、一体どれだけ時間をかければ友達といえるのかって話になってくるな」

「むむむ」


友達の境を考える時点で間違いな気がする。

友達というのは知らぬ間になっている物だよな。


「よし。考え込んでいても今日は何もできない。いつものように作業する前に、予定通りプラモ買いに行こう」

「はぁ、そっちから話を持ち掛けておいて切り替えがはやいでござるなぁ」

「別に問題を棚上げしているわけじゃないしいいだろう。ああ、気になるならそこで対策考えていていいぞ。俺はプラモを買いに行く」

「待つでござるよ。拙者もプラモを買いに行くでござる。一人で悩むなどごめんでござる」


ということで、俺たちは気持ちを落ち着かせるためにも予定通りプラモデルを買いに町へと出るのであった。



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