第2話:持つべきものはオタク同士

持つべきものはオタク同士



キーンコーンカーンコーン……。



ようやく授業が終了する鐘の音が聞こえてくる。

授業を行っていた先生は幸い俺たちの担任だったのでそのままホームルームでの報告に移る。

これが別の先生だったら、担任が戻ってくるまで待たないといけないという時間の無駄が出てくるわけだ。

そんなことを考えつつ、俺はすかさずノートと教科書をしまって帰る準備を整えていると……。


「はーい。今日は特に連絡事項はありません。ですが、もうすぐ期末テストです。ちゃんと勉強しておかないと夏休みも出てこないといけないですよー。では、気を付けて帰ってください」

「起立、礼」

「「「ありがとうございました」」」


担任「幸山 雛菜 さちやま ひな」の伝達の後、桜乃の号令で挨拶をしておわる。

最速ペースで何よりだ。

俺はさっさと荷物を詰め込むと鞄を手に持ち……。


「園田。帰るか」

「帰るでござる」


ということで、さっそく「魔法少女」のことを話し合うためアトリエ兼家に戻ろうとしていると……。


「あ、恋乃宮君はちょっとまってください。ちょっとお話があります」


そんな声をかけられて立ち止まる。


「叶殿。何かやったのでござるか?」

「そういうことはしてないがな。園田、先に帰ってるか?」

「あー。幸山先生。叶殿とのお話は長くなりそうですか? 一緒に変える予定なのですが?」

「長くはなりませんよ。ちょっとお話をするだけですから。場所は……。もう皆さんほとんど帰っていますからここでいいですね」


気がつけば教室の中は数人の仲良しグループが放課後何をするのか話し合っているぐらいで、ガランとしている。

まあ、高校生ともなれば用事は色々あるだろう。

教室でぼーっとするなんて余程の暇人しかいない。

とりあえず、俺個人としては緊急の用事があるのだが、他人には理解されないことなので仕方なく先生がいる教壇に近づく。


「それでお話というのは?」


短く済むのであればさっさと答えて帰る方がいいに決まっているのでさっそく話を聞きだす。

しかし、この幸山先生は身長が低い。

精々140あるかないか。

容姿は髪の毛色は茶色でセミロング。スタイルは普通。ああ、ちゃんと出たり引っ込んだりしているってことな。

つるぺったんではない。だが傍から見て……どこかの合法ロリですか?と聞きたいぐらいだ。

まあ、実際そんなことを聞くわけもないので、頭の中で考えるだけなんだが。


「そのですね。体調などは問題はないですか?」

「はい? 質問の意図がわかりませんが、体調に問題はありませんね」


なんで呼び出されたと思ったら体調を聞かれるんだ?

俺は特に難病を抱えたりはしていないぞ。

むしろ健康体だろう。

前世でも健康体だった。とはいえ、老後は足腰が弱って寝たきりになったのでそんなのは二度と経験はしたくないので今世では体力づくりのために毎日ランニングをして鍛えている。

おかげで体力には自信がある。


「そうですか。それならいいんです。私は担任として恋乃宮君のやっていることは知っていますから。今回の期末試験が負担になっていないかと思いまして」

「ああ、そういうことですか。そこは問題ありません。ちゃんと調整していますので」


流石に俺が作家だというのは学校の一部の先生方には連絡している。

もちろん、担任である幸山先生も知っている。

そうしないと色々動くことに制限が掛かるからな。

学校側としてはライトノベルだろうが有名作家が生徒というのはうれしいらしく公式に認めてもらっている。

とはいえ、俺が学校で目立ちたくはないので秘密にして普通の扱いとなっている。


「はい。恋乃宮君はそういう所しっかりしていますからね。大丈夫だとは思っています。ですが、何かあったときは大人を頼ってくださいね」

「お気遣いありがとうございます。何かあった際にはご相談させていただきます。では、失礼します。今日も帰ってやるので」

「無理はしないでくださいね。園田君も頑張るのはいいですけど無理はしないように」

「わかっているでござるよ」


そう言って幸山先生と別れる。

本当にちょっとしたお話だけで終わってよかった。


「しかし、前も言ったと思うのでござるが、学校でそちらの部活に入る気はないでござるか? そうすればアトリエに戻る必要もござらんが?」

「アトリエならエロゲーやり放題で、アニメも見放題。パソコンの性能も最高峰。わざわざ機能が制限される学校で作業する意味を見出せないな」

「あー、そういえばそうでござるな。アトリエでなら周りの目も気にしなくていいでござるからな」

「部活動っていうのは、学校からの支援が受けられるのがいいんだ。だが支援がいらない俺にとっては学校でやる以上報告の義務とか成績の発表みたいなのはただの邪魔でしかないからな」


前世があるおかげで部活動っていう物の見方も変わってくる。

当初は学校のメンツのためのモノだろうと思っていたのだが、爺さんまで生きていると軟化した見方ができるようになった。

部活動っていうのは学生のためにあるものだ。

まあ、世の中お約束でお金を引き出そうとすると対価として色々必要なことが多いってやつだな。

あとは、世間的に全生徒が部活動に入っていますとか謡っている学校もあるが、それは学校のメンツのためだよな。


「お金があるって強いでござるなぁ」

「世間はそんなもんさ。まあ、税金関連の手続きとか面倒なんだけどなー」


お金を稼ぐということはその分ちゃんと責任が発生するわけだ。

特に収入が多いと、ちゃんと確定申告とかしないといけないし大変極まりない。

これは前世も今世も変わらない。

それからはしばらく無言で道を歩く。


じーわじーわ、じわわわ……。


蝉の声が耳の良く響く。

今年も夏が始まったという感じだ。

その前に無事に期末テストを乗り切らなければ意味がないが。

俺たちはちゃんと学習をしているので問題はないと自信がある。

そして創作活動や夏の休暇を満喫する15の夏を送る予定だったんだけどなー。


「なんで、こうなるかな。いや、夏を楽しむためにも問題を解決するしかないな」

「ああ、そういえばそんな話でござったな。帰りの道すがら話すわけにはいかないでござるか?」

「あー、別にいいか。はたから聞けばただの与太話だからな」


ということで、俺は「春風の魔法少女」の世界にいるかもしれないという話を園田に説明をする。

こいつはオタクであり俺の友人でもあるから、この手の話を聞いても引かないし、何かと協力をしてくれるだろうと思って話している。


「……というわけだ。どう思う?」

「どう思うって言われても……。今の所は何とも言えぬでござるな。あの桜乃殿が魔法少女になる。いやー、高校生でリアル魔法少女はイタイでござるなー」

「ああ、そういわれるとそうだな。でも、コスプレって高校生よりも上の人がやってるから問題はなさそうだが?」

「それはコスプレ会場だからでござるよ。一般の公衆の面前でコスプレをさらすのとは意味がちがうでござる」

「確かにな。とりあえず、俺の目的はそういうことだ。このままだと町に被害が及ぶどころか地球が大ピンチとなるわけだ」

「にわかには信じがたいですな。叶殿の前世の記憶があるっていう方がまだ信用できるでござるよ」

「だよなー。しかもこの話は前世で読んだ小説の世界と来たもんだ。いやー、自分で言ってて頭おかしい発言だというのは自覚がある。これぞ未来を一人だけ知っているからの苦悩ってやつか?」

「よくある未来を予知、または未来からやってきた人の物語でござるな。とはいえ、そのストーリーで考えるならそういう未来は大体回避不能では?」

「やっても見ない内に諦められないな。だってここで回避するのもアトリエとその中の物資を失うことになるしな」

「あー、確かにそれは避けたいでござるな。時期も詳しくわかっていないからなおのことということでござるか」

「そういうこと。とりあえず、俺のたわごとに付き合ってくれないか? 外れればそのままのんびりできるんだ」

「そうなることが一番でござるな。と、アトリエに付いたでござるな」


そんなことを話しているうちにアトリエに到着した。

そう、このアトリエこそ、俺の成果の集大成といってもいいだろう。

一般家庭にしては大きな家屋にその横に併設するようにガレージが二つ存在している。

俺たちは、家には入らずガーレジの一つに入る。


「いやー、本当に贅沢ですな」


園田はそう言いながら、いつもの席に荷物を置く。


「飲み物はコーヒーでいいか?」

「ホットでお願いするでござる」

「あいよ」


俺は注文を聞いてそのままコーヒーの準備を開始する。

そう、ここは俺のアトリエ兼個人趣味のカフェである。

商売にしていないから個人趣味だ。

ちゃんとカウンター席にテーブル席、そして電力供給完備の素晴らしい場所だ。

普通に商売できるぐらいには整えた。


「本当にこの場所にくると。叶殿が売れっ子作家だというのが分かりますなー」

「俺も自分の立場を再確認できるからいいな。ちなみに俺が130歳まで維持費は確保している」

「もう勝ち組ではござらんか。しかも余分で遊ぶ費用もあるでござろう?」

「もちろん。家を維持するだけの費用しかないとか、片手間落ちだろ。とはいえ、働かないなんて選択肢はないけどな。俺は作るのが楽しいからな」

「生粋のクリエイターでござるな」


そう、既に働かなくてもいい資金は確保しているが、それで終わるのはもったいない。

前世でできなかったことをフルでやるために動いているわけだ。


「ここまでそろえたアトリエを放棄するとかありえないからな。と、ほらホットコーヒーブレンドは俺のオリジナルな」

「確かに、改めてここでくつろぐと真面目に放棄とかありえないでござるな。ありがとう」


お互い席について一旦コーヒーを飲む。


「しかし、園田は本当にホットコーヒー好きだな。若者は夏場はアイスだろうと思うんだが」

「それを言うなら叶殿はいつもホットの緑茶でござろう?」

「まあな。なんか緑茶が美味しいんだよ。コーヒーが飲めないわけでもないけどな。元爺さんの影響かね。だけど、冷たいコーラとか飲むときもあるぞ?」

「それは拙者もあるでござるよ。と、休憩はここら辺にして、その魔法少女になる桜乃殿の話を詰めるでござるよ」

「なんかやる気になったな」

「アトリエが無くなるのは、勘弁でござるからな」


ということで「春風の魔法少女」に対しての対策会議が始まるのだった。



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