第1話:今後の方針

今後の方針



「この小説。3巻で終わってんだよぉ!?」


思わず大声を上げてしまう俺。

慌てて口を閉じて周りを見るが、別にほかの生徒は気にしてないようだ。

まあ、俺は学生としては普通にオタクと認識されているので、ただオタクが叫んでいるというぐらいしか認識されていないだろう。


そう、俺はオタクであることを隠してはいない。

むしろ堂々と宣言しているね。

前世では、学校という社会になじむためオタクであることをあまり公言してはいなかった。

だからこその反動だろう。

今世は自由にやってやると決めたんだ。

意味のない交友関係に時間など使わないためにも、オタクであるということを宣言しているのだ。

飲み会とか避けるのに「みたいアニメがある」で終わりだからな。


と、そこはいい。

俺の学校での立場は先ほどの叫び声で変わりようはないと確認できたが、当の問題は解決していない。

俺が今いるこの日本はどうやら、打ち切りになった「春風の魔法少女」というライトノベルの中の可能性があるということだ。

しかも、巨悪と戦って地球が大ピンチ的なノリだった気がする。

何せ今世も合わせて約80年近くも前のことだ。

覚えている方がおかしい。


「なんでマイナーといっては失礼だが、なんでこの小説の世界なんだ? この場合せめて自分の小説にしてくれれば……」


自分だって作家だ。

自分の作品に出た方がやりやすいのにと思うのは仕方がないこと。

とはいえ、生まれ変わり先なんて転生物語でもほぼ選べないから仕方のないことか。

自分の力が及ばないことは深く考えないようにするのが一番だ。


「……問題は、俺がこの物語とどうかかわっていくかだな」


これが、ハートフルストーリーなら文句も言わずに放置決定なんだが、この「春風の魔法少女」は人死にが出るし、建物は倒壊するし、意外とリアリティある魔法少女モノになっている。

……まどかマ○カの影響だろう。本人も意識してたってコメント欄に書いてたし。


つまり、放置しておけば「恋乃宮 叶」こと俺が死ぬ可能性が出てくるわけだ。

そもそも、地球が大ピンチというのであれば逃げ場などない。

作家として稼いだお金も意味がない。何せ使える未来がないのだから。


となると、魔法少女になるであろう「桜乃 春香」をサポートしつつ地球が大ピンチを避ける。

いうのは簡単だが、どうすればいいのかはさっぱりわからん。

何せ、物語は完結していないのだから。


だが、分からないといって放置なぞありえない。

最悪の未来を避ける可能性を持つ彼女と縁を持てば何とか助けてもらえるかもしれない。

なんという自己保身な意見だろう。

いや、下手すれば戦いに巻き込まれて死亡する可能性もあるが、運任せとういうのは避けたい。

普通魔法少女モノであれば、最後は魔法少女が問題を解決して大団円だろうが、その過程で……。


「この町は無くなる」


そう、俺がなぜ彼女と関わろうとするのかは、ここにある。

この町が被害にあうからだ。

いや、無くなるというのはあれだが、序盤、第一巻において怪人の出現によって町が破壊されつくすのだ。

つまり、この町にいる今世の家族、そして俺の小説を書くための建てたアトリエが消し飛ぶことを意味する。


そんなのは絶対阻止である。


引っ越しも手ではあるが、家族を説得できる自信はない。

まあ、現実的に考えるなら、町が無くなる日を割り出せたならな、そこ期間は旅行に向かわせるぐらいが精々だな……。

見捨てる選択肢もあるがそれこそ最終手段だ。

そこまで薄情でもないので、まずは町が無くなることを阻止する方に動くしかないというわけだ。


「方針は補佐だな。俺はこの物語において存在していない。下手に関わると物語が読めなくなる。いや、まて。まずはその確認からか」


この世界が俺の記憶にある「春風の魔法少女」の物語通りに進行しているのか?

そこを確認しない限りは下手に接触もできない。

既に物語を外れきっている可能性がある。

つまり桜乃が魔法少女にもなることもない可能性もあるわけだ。

いいねー。その可能性に賭けたい。


俺は今世を作家以外にも自由に時間を使ってのんびり暮らす予定なんだ。

いや、必ずこの夢は叶えてみせる。


だから、俺がモブだろうが何だろうが関係ない。

夢の叶えるのに立ちはだかるモノはなんであれ排除してみせる。

こちとら趣味に傾倒して100年を超えるんだ。

今更このオタクを止められるとは思うな。


「さて、そうなるとまずは状況を確認する必要があるが……」


まず大事なのは俺が「春風の魔法少女」の物語をちゃんと思い出すことだ。

そうでなければどこから手を付けていいかはわからない。

わかるのはまだ「桜乃 春香」は魔法少女になっていないということ。

これだけは確定して言える。

何故なら彼女が初めて魔法少女になる時点で怪人の攻撃によってビルが一つ倒壊することになっているからだ。

その事故で多くの人がケガを負ってしまい、魔法少女として「桜乃 春香」は覚醒することになる。

ほら、この時点でどこがハートフルストーリーなのかって感じだよな。


とはいえ、この時点では幸いにも死亡者は存在していない。

いや、だからこそ彼女はハートフルな魔法少女になってしまったと勘違いしてしまったのだ。

だから怪人に仲間が殺されることになってしまう。

しかも桜乃春香が敵を見逃すといってからの不意打ちをかばってのものだ。


……これが3巻打ち切りの原因じゃないか?

仲間になる子はクール系で2巻で人気を集めていた。

しかし次の3巻で死亡。

なに? アニメの3話死亡にならっているわけか?

サイクル早すぎってやつと、これで普通の魔法少女モノを見ていた客層が離れたんだろう。

って、そんな予想は今は関係ない。


この状況でどうかかわりを持つってサポートに徹するかを考えないといけない。

ただ、普通に「桜乃に君は魔法少女になるんだ。サポートさせてほしい」なんていえば頭がおかしいやつ決定だ。

死亡する予定のクール系の第二の魔法少女も同じ学校で学年ではあるが、同じクラスではないのでなおのことかかわりが持てない。

……別の学校なんてのよりはマシだと思おう。


さて、改めて俺が今から取るべき行動だが……。

ひとまずは、魔法少女の覚醒を見届ける。

そして、志望予定に第二の魔法少女の救出が目標かな?

そこからは……展開が変わりすぎているから考えるしかない。


「ざっくりしすぎているな。むう」


色々方法は浮かぶが、もう少し項目ごとに詳しく書いてみるか。

と、思っていると机に影が差して誰かが近寄ったのが分かる。

顔を上げるとそこには……。


「新しネタでござるか?」

「なんだ園田か」

「なんだとはひどい言い草でござるな」


ござるとか、高校にもなって言ってるやつは前世にもいなかったよ。

そういう意味で、ものすごい人物といえるが……。

俺にとっては彼は友人だ。


名前を「園田 英雄 そのだ ひでお」という。

名前は立派なのに、実情が残念オタクというやつだ。

まあ、俺自身は嫌ってはいない。

オタクであることを隠す必要性は無いと思っているからな。

人それぞれだ。

好きなものを好きとはっきり言えるこの園田には漢を感じる。

ちなみに容姿はイケメンの部類なんでそこは世界は平等は無いと思うと同時に、神は二のモノを与えないというのだろうなとおもう。

思いっきりプラスマイナスゼロというやつだ。


そして何より……。


「で、新しい新作のネタでござるか? これで更新が遅れるのは嫌でござるよ?」


そう。この園田は俺が作家をしていることを知っているのだ。

というか、ファンである。

この学校に通ってからの付き合いではあるが、オタク同士ということで意気投合して、好きな小説に俺の小説を堂々と上げてくれたのだ。

本人も創作活動をしてみたいといっていたので、俺の素性を話してそれ以降色々仲良くしてもらっているわけだ。


「いや、新作じゃなくて現実で起こる予定」


俺は思いついた。

園田は俺が前世の記憶がある。という話をしている。

本人は半身半疑で小説のネタと思っているようだが、事実だ。

とりあえず、俺の前世の話を証明するいい場面だ。


「は? どういうことでござるか?」

「前に話しただろう。俺が前世ってやつ」

「あー、正直拙者よりも叶殿の方が痛くないでござるか?」

「おうおう。信じないのはいいんだが、正直今回に限っては冗談で済ませるわけにはいかない。というか冗談であった方がいい感じだな。とりあえず詳しくこの件について話したいから放課後時間あるか?」

「構わないでござるよ。いつものように叶殿のアトリエで作業の予定でござるからな」


園田はその創作活動の場所として俺のアトリエを貸してやっているので大抵放課後は一緒に帰ってのんびり作業をしているというわけだ。


「じゃ、残りの授業頑張るか」

「もうすぐ、期末テストでござるしなぁ」

「別に俺も園田も赤点じゃないだろう」

「こっちは成績が落ちると外出が厳しくなるでござるよ。全く親ときたら」

「ちゃんとしたご両親だよ。そこら辺を止めたからったらちゃんと一人前にお金稼ぐんだな」

「はぁ……それを言われるとつらいでござるな」


園田がこんなオタクになったのはある意味親御さんに原因があるともいえるけどな。

勉強漬けで外に遊びに出るのは禁止だったらしく、その間出来たのは家でアニメとか小説を読むことぐらいだったらしい。

漫画は俺の家に来てからだ。

なんともすさまじい生活を送っていたものだ。

あまりにあれだったんで俺のアトリエに招待したというのもある。

親としては将来苦労してほしくないから勉強ができた方がいいといういけんだが、本人たちは遊びたいのだ。

どっちが正しいかなんてやってみないとわからない。


「園田も自分ができると証明するためにもさっさと作品作るんだな」

「叶殿みたいに才能があるわけでもないでござるよー」

「才能を言い訳にする前に頑張れよ」

「了解でござるよ。とりあえずは勉強でござるな」


俺にとっては二度目の高校生活。

正直言ってつまらないということは無かったりもするんだ。

勉強に対しての姿勢が違うからなー。


「そのためにも、絶対阻止しなくてはいけない」

「まーた言っているでござるよ」


この将来があるかもしれない園田も死なせたくはないからな。


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