死にたくなる木

以前、「良い枝ね」とそこに首を釣りたくなるショートホラードラマを見かけた。

これが現実にあったら、さぞかし恐怖だろう。冗談じゃないと思うだろう。


実は、近所にそのモデルなんじゃないか?という木がある。


きっかけは、友人からの噂話だった。


「四丁目の空き家あるだろ? また人が住むんだってさ」

「住むんだってさ……って、何?」

「何って、あそこに住んだやつは呪われるらしいよ」

「そんな『まじ怖』みたいなことあるかよ」


最初は当然信じなかった。


しかし、一ヶ月も経たないうちに、空き家の住人は亡くなった。死因は、庭の木での首吊りだった。


「お前の言った通りじゃんか……どうなってんだよ」

「俺に言われても困るよ」


友人と話し合っても埒が明かないので、近所の大人に聞いてみた。すると、


「あー、あそこね。確かに人は居着かないよ。必ず良くない様子で空き家になる」

「それって……こないだみたいに住人が亡くなったり……?」

「それもあるし、あとは夜逃げして山の奥で見つかったり。あ、その人も首括ったって話だな」


奇妙な共通点に、背中に冷や汗をかいた。

やはりあの家には何かあるのだ。


塀を少しよじ登って例の家を覗くと、想像していたThe事故物件という印象とは程遠かった。

古いなりにリフォームなどがされてきたのだろう、小綺麗な家だった。


ただ一つ気になったのは、整頓された家や庭とは対照的に、一本だけ生えている苔だらけの木がある事だった。


しかも、目につく枝に、幅2cmほどの擦れた跡がある。その正体は容易に察することができた。


不気味に思ってすぐ塀を降りたが、その木の事が気になって、つい門を開けて敷地に入ってしまったのだ。

今思えば、どうしてその思考回路や行動に至ったのかは謎だが、どうしても枝の質感や地面からの高さなどが知りたかったのだ。

幹を触り、良い木だなと思っていると、


「何してんだ!」


背後から突然友人の声がし、驚いて振り向いた。


「何って……」

「何するつもりだったんだよ。縄なんか持って」

「縄……?」


気付けば、両手に縄を抱えていた。しかも、不器用ながら輪っかを作ろうとした痕跡がある。

友人の指摘に、急に自分への恐ろしさが込み上げてきた。思わず縄を地面に落とす。


「いいから、早く出よう! もう近づいちゃだめだ!」


強く腕を引っ張られ、そのまま敷地を出た。


それからというものの、あの家は特に通学路という訳でもないので関わる事はなくなった。自分からあの家の話を出すことも、興味を持つこともやめた。そのお陰か、あの家に関する話も自分の元へは入らなくなった。

もしかすると新しい住人が上手く無事に過ごせているだけなのかもしれないが、それも詮索はやめようと思う。


良い時も悪い時も、ああいう所には1ミリも触れてはいけないのだ。


だからこれを読んだあなたも、あの家の事は探らない方が良いだろう。表向きには何の変哲もない家なのだから。

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