空腹感

 最近、全く動かなくなった。仕事もリモートワークだし、外回りの用事も無い。買い出しは通販の方が電車賃の節約にもなるし、都会といえば都会の部類に入るので、何でも家から出ることなく手に入る。

 そのせいか、エネルギー消費のない身体がエネルギーの摂取も求めなくなっていた。いつの間にか一日一食となり、その内容もご飯を茶碗一杯程度におさまっていた。もちろんご飯しか食べないのであれば、この時代に脚気となるのも錯誤が過ぎると思い、時には玄米を食べながら一日の食事を終わらせた。

 

 いつしか、その一杯の茶碗すら身体は求めなくなっていた。本当にお腹が空かない。生きる上で、燃料はさほど必要ない。体重はきっと10キロ以上痩せたに違いない。鏡で見て一目瞭然だ。それでもお腹は空かない。


 ある日のリモート会議で、同僚の一人が自分の異常性に気付いた。

「お前、痩せすぎじゃね? ちゃんと食ってるか?」

「必要な分は食べてるよ」

 そう答えたのは嘘ではない。だが、彼にとってその必要な分は圧倒的に足りていないそうだ。

 そのため、同僚が近々自分の家を訪ねて来ることになった。きっと何か食べ物の差し入れがあったり、料理を作っていく気だろう。しかし、それもきっと食べられない。

 そう、その頃には、何も食べられないだろう。

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