得体の知れない人

 ある日、アルバイト先のコンビニで、レジの会計が5,678円合わなかった。しかも、マイナス。端数もあり、単純な一回の数え間違いでは済まない状況だった。

 ただ、わかりやすいことに、特定の人物がレジに入る時だけその現象は起こった。

 それは自分だった。

 そのため、店のお金を横領している疑いをかけられた。勿論そんな自覚はないし動機もない。いわゆる濡れ衣というやつだった。


 犯人の心当たりはある。最近振った、バイト仲間のA子だ。気まずい雰囲気にもかかわらず、お互いにバイトを辞めようとはしなかったし、A子は自分を狙って今月のシフトも被せてきていた。だから、実際はレジの会計がおかしかった日、A子もシフトに入っていたのだ。


 ではなぜ、A子出なく自分ばかり疑われたのか?


 それは、A子が最初にシフトとレジのマイナス日の関係性に気付いたからだ。そして、自分のシフトが全日かぶっていたことも、指摘したのはA子だった。

 もちろんA子の怪しさを訴えたこともあった。しかし、A子はその時既に店長と関係を持っていたのだ。おかげで店長はずっとA子の味方である。


 振られた恨みか、はたまた別の動機があったのか、自分を貶めるためなら手段を選ばないようなやり口だ。

 避けられない結果ではあるが、数日も経たずにコンビニのバイトをクビになった。


 翌日、大学に行くと、専用ロッカーに猫の死体が詰められていた。

 次の日は、家のポストに赤い封筒と自分の顔がぐちゃぐちゃに塗りつぶされた写真が入っていた。

 A子とは連絡が取れない。証拠もないので警察も動かない。友達に相談しようにも、自分の状況を全て話すと「流石にやりようがないよ」と言われてしまった。


 最終的に、A子に何をされるか予想がつかなくなったので、友達の家を転々としながら新しい一人暮らし先を見つけることにした。

 安心しきってはいないが、これを機に何かが好転すればいいと思っている。


 ちなみに前提として、A子に関しては名札の名前以外何も知らないし会話もなかった。この数日間は、そんな状況下での出来事である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る