お盆

 毎年お盆は、曽祖父の家に預けられている。そのワケを話そうと思う。


 四歳の時、幼稚園でとある絵本を読んだ。それは、おじいさんと鬼が取引をして、正直者のおじいさんは結果的にお宝を頂くというストーリーだ。

 ただ、当時の担任の先生が話し上手で、幼かった自分たちはその話を完全なる鬼のホラー話として認識していた。さらに、ごっこ遊びにその話を取り入れることによって、当時まだ経験のなかったスリルというものを麻薬のように体感するようになった。


「君たち、その遊びはなんて言うんだい」


 ある日、自分たちはお盆休みの初日にもかかわらず親の事情で一日だけ幼稚園にお世話になっていた。そして夏の暑さにも負けず例のごっこ遊びをしていた。すると、いつの間にか入ったのか知らない黒づくめのおじさんが自分たちの側に立っていた。

 今思えば不審者でもそれ以外でも、危機感をおぼえて即座に逃げ出すのが正しい判断だったが、自分たちにはその選択肢が浮かばず、素直に応えてしまった。


「えっとねえ、○×ごっこ」

「そうかい、それは助かるねえ」


 「助かる」の意味はわからなかったが、それだけ答えるとおじさんはどこかへ去ってしまった。


 事が動いたのはすぐだった。

 翌日、ごっこ遊びをしていたうちの一人が行方不明になったのである。事情を聞かれた自分たちは、昨日のおじさんの話をした。

 そのおじさんに誘拐されたのだろうと、大人たちはすぐにその子を探したが、結局見つからなかった。


「それは心配だ。お盆中はここにいなさい」


 ちょうど帰省で曽祖父の家に来ていたが、事情を聞いた曽祖父は自分の身を案じて、そのしばらく家にいることを提案した。

 そして他の大人たちと同じように曽祖父も詳しい話を聞いてきたが、 毎年お盆のどこかで帰省する自分は、曽祖父にも懐いていたので、不審なおじさんの話やごっこ遊びについて聞かれたことも話すことにした。

 すると、曽祖父は顔色を変えて大声を出した。


「○×ごっこというのかい??」


 頷くと、彼は自分の方を強く掴んできた。


「本当だね!? まちがいないんだね!?」


 その剣幕は、起きている行方不明事件の何倍も恐ろしく記憶に残っている。


 そして曽祖父の言い分はこうだ。

 自分たちの考えた○×ごっこ遊びは、偶然にもその土地神様を呼び出してしまう儀式に似ているそうだ。なんなら、ごっこ遊びの土台になっていた絵本時代が、その祟りを元にして教訓として作られた物語であったとか。

 それを疑似的に再現してしまうことによって、自分たちはこの祟りに巻き込まれてしまったのではないか、ということであった。


 幸運なことにその後自分に異変はなかったが、次の年のお盆初日のことだった。

 ごっこ遊びのメンバーがまた一人消えた。来年は小学生だということもあり、期待に満ち溢れた年でもあった。


 その件が知れて曽祖父はすぐに自分に連絡をよこした。

 内容は、お盆中ずっと曽祖父の家で過ごすことだった。訳は、絵本の舞台が曽祖父の家で、結界をはれるからとのことだった。

 にわかに信じがたいというか、話が出来すぎているとしか思えない事態であったが、両親も自分もその言葉を信じるしかなかった。


 幸運なことに、翌年以降自分に神隠しが降りかかることはなかった。しかし、この事件の原因も打開策も、いまだにわかっていない。ごっこ遊びのメンバーが自分だけとなった今、もはや調べようがないのであった。


 そして、曽祖父宅への帰省ももう十五年目となったが、これをやめた時、自分は消されてしまうのだろうか?

 それがはっきりしない今、曽祖母は亡くなり曽祖父も老人ホームへ入る事が決まり、親戚たちはこの家の処分を話し合っている。

 

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