孤独の隔離部屋
孤独は万病のもとです。
この時期の私は、とある事情で部屋から出られず、仕事もこの一室で完結せねばなりませんでした。
同僚や家族とも最低限の会話で、この世に自分一人取り残されているかのような錯覚にも陥りました。
今思えば、そんな負の感情で染まってしまっていたのが、あの体験をするきっかけとなったのかもしれません。
「今日も疲れたし、もう寝よう」
特に出かける用事もないので、基礎代謝のみの消費だと夕飯も要りませんでした。
空腹に気付いてしまうとつい食べてしまうので、私は夜ひと段落するとさっさと電気を消して布団を被っていました。
--コツン。
扉の向こう側から音が聞こえました。
しかし、真っ暗な部屋で私は動く勇気がありませんでした。
よく見るホラー映画でも、見に行ってしまった暁には恐怖体験が待っているのです。
「大丈夫、眠ってしまえばすぐ朝だ」
そう自分に言い聞かせ、目を瞑り続けました。
しかし、何かがおかしい。私は違和感の正体を探しました。
真っ暗な部屋、何も変化はない。かぶっている毛布も、奥の椅子の影も、いつも自分が見ているものです。
ここで、私は違和感の正体に気が付きました。
「なんで部屋の様子が見えるんだろう……!」
目を瞑っているはずなのに、私は目の前の景色が見えていました。
それと同時に、嫌な予感が襲ってきます。
予感は本物で、私はついに見てしまいました。ボサボサの黒い髪を振り乱して、ゆっくりとドアから近づいてくる女の姿を。
一歩踏み出す度に、重心と同じ向きに首を傾けて、よく聞き取れなかったのですが唸り声もあげていました。
逃げ出そうとも考えましたが、既に遅く、身体は全く動かなくなっていました。
その間にも女は近づいてきて、ついに私の目の前まで来てしまいました。
「お願いします、私には何もできません、何もしないでください」
実際に声が出なかったので、心の中で繰り返していました。
女は変わらず訳のわからない言葉を話し、今度は顔を近づけてきました。幸いなことに長い髪で顔は分かりませんでしたが、どんな顔か想像するだけでも背筋が凍る思いでした。
ここからどれだけの時間が経ったかわかりません。女は抑揚のない低い声でずっと何かを繰り返したままです。
それ以外何かしてくることはなかったので、私もこの状況に慣れてきていました。
そしていつの間にか、眠りについてしまったのです。
最初は想像を絶する恐怖だったものの、朝起きた時には不思議とその恐怖は無くなっていました。さらに、不思議と友達に連絡を取りたいという気持ちになっていたのです。
早速一番仲の良い同僚に電話をかけると、彼はすんなり応じてくれました。
『おう、どうした?』
その声を聞いて、私はここ最近の孤独感や焦燥感を彼に打ち明けていました。
彼は黙って私の話を受け入れ、最後には優しく励ましてくれました。
「ありがとう。最近本当に辛かったからさ、元気出たよ」
『いつだって連絡して良いんだからなー』
ずっと独りだと考えていたことがバカらしくなりました。素敵な友達を持って何て幸せなんだろうと思い、私は残りの在宅期間も乗り越えられそうな気がしました。
女はずっと私の後ろに立っていました。
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