書き込み

 いつのことだったか、自分の体験談を、とある怪談系掲示板に書き込んだことがある。

 内容は、安すぎる家賃のアパートにまつわる災難で、いわゆる事故物件での体験談だった。

 そのスレッドは思いの外閲覧者が来て、冒頭にまとめて話を載せ切ったあと、すぐにスレ民たちからの質問攻めにあった。


23:名無しのネコ

>>1

怖すぎワロタwwww そこには今でも住んでる?


24:最初の名無しさん

>>23

今でも住んでるよ。悪さしてくるわけでもないしなw


25:名無しの特定班

>>24

南無阿弥陀仏


26:名無しのプーさん

>>25

やめれwwww縁起でもないwwww


 それは大半が事故物件での興味本位で書き込まれたものだった。それに自分も注目された優越感が重なり、あらゆる質問に答えていった。

 そのうち、変なことを書き込むアカウントが現れた。


67:名無し

そこって、S県S市ですか?


 住所を特定されるのも嫌だったので、曖昧な返事を返した。そもそもネットに特定情報を書き込むことも求めることも、慎重すぎるくらいでいるべきなのだ。するとその「名無し」は、さらに突っ込んでくる。


70:名無し

>>68

外に鳥居がありますよね?早く引っ越した方がいいです。


71:名無しさん@PIP

>>70

霊能者キターーーー(゚∀゚)


72:最初の名無しさん

>>70

鳥肌立ったわ。鳥居あるよ((((;゚Д゚)))))))


73:名無しのプーさん

鳥だけに


74:名無しのネコ

>>73

不謹慎乙


 その忠告を機に、以降「名無し」は書き込みをやめた。残されたのはガクブルの自分と、異様な雰囲気に包まれたスレ民たちであった。

 後味の悪い体験をして、さらにタイミングの悪いことに時計を見ると時刻は3時15分。いわゆる丑三つ時は2時というイメージがあったしそこは安心したものの、深夜であることに妙な不安を覚えていた。


 その不安は的中し、ラップ音が鳴りはじめた。台所の方から、パチパチという音が鳴る。たまにそこで女が、ガスコンロの方を向いて俯いて立っていることもあった。その女は特に悪さをするわけでもなかったので、いつも気にせずにいたが、今回は少し様子が違った。

 女はこちらを向いて俯いていたのである。そして、パソコンに向かう自分の方へ、少しずつ近づいて来たのだ。それこそ、ヒタヒタ歩くのではなく空中浮遊をしているようにスーッと移動して来たのが、異常に不気味に感じられた。

 そう感じている間にも女は自分に近づいてくる。


70:名無し

>>68

外に鳥居がありますよね?早く引っ越した方がいいです。


 不意に、名無しの言葉を思い出した。そうだ、女が向かっているのは自分でなく、その先にある外の鳥居だったのだ。

 そうとわかればという感じで、ゆっくりと横にずれ、女の進行ルートから外れるようにベッドへ向かった。

 予想通り、女は鳥居の方向一直線に壁を貫通し消えていった。


 このパターンは今回が初めてだったが、もし女が自分に到達していたら、重なっていたらどうなっていたのだろうか。

 そして、なぜ女は鳥居を目指したのだろうか。

 鳥居は、なぜその場所に祠もなく立っているのか。

 謎は深まるばかりだ。


 後日追加として再びあの掲示板を訪れたが、「名無し」は現れなかった。

 もしこの話について何か詳細を知っている人がいたら、ぜひ掲示板で教えてくれ。


 

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