公園の下には

 近所に、草野球くらいはできる少し大きめの公園がありました。当時小学生ながらにみんな、公園のくせして日向や木漏れ日も少ない不気味さは、肝試し会場としてうってつけだと認識していた場所です。


 その年も、夏休みの肝試しイベントはその公園で開催されることになりました。子供だけだと危ないので、もちろん大人の引率もあります。


 私はいつも一緒に遊ぶRちゃんと組むことになりました。ミッションは簡単です。公園の奥、象の滑り台の下に設置された蝋燭から、自分の蝋燭に火を付けて帰ってくるというものでした。

 他の組が次々と、道中大人たちに驚かされ泣きべそをかきながら帰ってきます。

 そしてついに、私とRちゃんの番になった時、入れ替わりの組が不思議なことを言って帰ってきました。


「最後にいるおじさん、焦げ臭くてリアルだったな」


 想像するだけでも嫌でした。蝋燭や線香の煙でも浴びたのでしょうか。視覚や聴覚だけでなく、嗅覚も使って私たちを本気で脅かそうとしてくる気なのです。

 Rちゃんと手を繋ぎ、少しでも気が紛れるよう歌を歌いながら出発しました。


「あ」


 大人たちの仕掛けを乗り越えながら私たちは順調に進んでいきました。

 そして、象の滑り台が近づいてきた時、Rちゃんがその下を指さしました。

 蝋燭の微かなゆらめきが見えます。


「あそこにさ、おじさんいるのかな」

「サッと取ってすぐ逃げようよ」


 考えることはまさに小学生らしいことばかりでした。とにかく、驚かされる前に逃げてしまおう。そういう考えでした。

 ゆっくりと近づき、私は蝋燭素早く蝋燭を灯に差し出しました。こちらの蝋燭に火がつき、ジジと弾ける音がします。ヒモに火が移って独特なにおいが漂いました。炎がもう一つと合わさり一瞬で私たち二人の顔を照らしたその時、それは三人目の顔をうつしました。


「わああああああ!!」


 反射的に私たちは走り出しました。先陣の子たちが言っていた、焦げ臭い香りがツンと鼻の奥を刺しました。

 しかしもうそれどころではない私たちは、必死で来た道を戻って行くしかなかったのです。


 私たちが戻ったところで、肝試しは終了しました。続々とおばけ役の大人たちが戻ってきます。中に、おじさんも何人かいました。


「滑り台のところ、誰がやってたの?」


 誰かがそう言いました。その瞬間、アレを見た子供たちは全員息を飲みました。


「まさか、いなかったなんて言わないよね?」

「やめろよ怖いこと言うの!」


 そんな会話をしている組もありました。

 それに答えてくれたのは、大人たちを仕切っているPTA会長さんでした。


「ああ、それはBさんだよ。怖かったでしょ?」


 私たちは一斉に安堵しました。話を聞くと、Bさんは昔お化け屋敷でおばけ役をやっていた時期があったそうです。そのため、自らの立候補と周りの推薦両方をもって、今回最後のおばけ役になっていたそうです。

 アレが人間だとわかった瞬間、Bさんはみんなに取り囲まれ人気者になっていました。解散の時間になるまで解放されない勢いです。


「Bさん、俺たちマジでびっくりしたよ〜」

「リアルだったしさ〜!」


 子供たちの喜ばしい感想に、Bさんも嬉しそうでした。しかし最後に、少し申し訳なさそうに言ったのです。


「でも、最後だけどうしてもトイレが我慢できなくて離れちゃったんだ。最後の子達、怖くできなくてごめんよ」



 その後ある日の社会の授業で先生が言っていました。大正時代くらいに根も葉もない悪い噂を流された人たちが、日本中で暴行を受けたり殺されてしまったりしたそうです。この地域も例外ではなく、あの公園が惨劇の舞台となったそうなのです。

 私が見たのは、そんな悲しい事件の犠牲者だったというのでしょうか。


 



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