机の下

 夫を亡くして四〇日経ちました。しばらく右肩から覗き込まれているような感覚が取れません。

 でも、不思議と怖くないのです。きっと、亡くなった夫が完全に向こうへ逝ってしまう前に、私たちを見守っているのでしょう。


 娘も似たようなことを言っていました。

「あのね、お父さんいるの」


 場所を聞くと、リビングの机の下を指差します。

「ここ!」


 嬉しそうな娘を見ると、夫がいなくなっても強く生きなければという勇気と元気を貰えます。


 四九日が過ぎ、右肩の違和感は無くなりました。娘も、机の下を指さすことは無くなりました。

 その日、お盆だったこともあり、お昼を久しぶりに娘と取ることができました。娘がテレビに夢中なのをチャンスと思い食器を洗っていると、嬉しそうな声が聞こえました。

「あ! お父さん!」 

 ハッとして台所からテレビの方に行くと、娘はテレビの画面を真っ直ぐ指差していました。


 そこには、井戸から這い出てくる長い髪の女の姿がありました。


 四九日間ずっと家の机にいたのは、本当に夫だったのでしょうか?

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