痴話喧嘩
久々にあった友人Cと、カフェでお茶をしていた時の話です。Cとは高校の同級生だったので、卒業後は軽く疎遠になっていました。久しぶりの再会に、テンションが上がって、昼過ぎに入ったのについつい時計は15時を過ぎていたのでした。
そのカフェは流行りのものをいち早く取り入れており、その時はタピオカドリンクが新メニューにあったことで、その時間は女子高生やカップルが多く来店してきました。
私たちのいた席はお手洗いの近くであまり人が混むような様子もなかったので、せっかくだからとタピオカを楽しみながら談笑を続けることにしました。
それなのに、その頃からCは私の後ろの方の席を注視するようになりました。
流石に私との話も上の空になってきたので後ろを振り返ってみると、私たちの一つ後ろ、お手洗い側の二人席にカップルが座っていました。ただ、他のカップルや友達同士のお客さんとは様子が違っています。
「なんかさ、ずーっと黙り込んでるんだよね、彼女の方」
控えめに指をさした先に、彼女らしき女性がこちらには後ろを向く形で座っています。猫背で俯き、明らかにこの場を楽しんではいない様子でした。
「なんだろう。別れ話かな?」
「えー? こんなおしゃれなカフェでする?」
Cの言うことはもっともでした。
そのため、私たちはどうしてもそのカップルの会話が気になってしまい、さりげなく聞き入ってみることにしたのです。
「だからさ、本当に辛くて」
彼氏の方は女性に対する文句を淡々と話していました。彼女はそれをうんうんと頷く素振りで黙って聞いています。
「それでさ、俺は別れたいんだよ。でも……」
その先が気になったのに、ちょうど人がお手洗いから出てくる音でかき消されてしまいました。
「惜しかったねー」
そう言いつつ、Cは空室になったお手洗いに立ちました。
事が動いたのはその2分後でした。
「ぎゃっ」
それはCの声でした。振り返ると、Cはカップルの側を通り私の向かいにちょうど戻ってくるところでした。
その顔は青ざめており、持っていったハンカチやポーチをそそくさとカバンに詰めています。
「どうしたの?」
「もう行こっか」
私の話を遮り退店を急ぐCを止める余地はありませんでした。
店を出た後Cに事情を聞くと、店の方は1ミリも見ずにぽつりと言いました。
「彼氏の方、電話だったの」
「え?」
「彼氏の方、目の前の彼女に愚痴ってるんじゃなくて、イヤホンで電話してたの! そこにいないみたいにさ!」
こんな事があるのでしょうか? 私もCも、彼氏の前に彼女らしき女性が座っているのをはっきりと見ているのです。透けている印象もありませんでした。
私も、再び店の方を確認する勇気はありません。結局、私たちはそのまま各々の家へ帰ることにしました。
最近またそのカフェの前を通ったので、思い出して書いてみました。あの女性は、今でも彼氏の前で相槌を打っているのでしょうか。
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