花子さん
数日前から、目の端に女の子が映るようになりました。私は霊感などなかったので、最初は未知の存在に恐怖しかなかったのですが、段々と冷静にその女の子について考えるようになっていました。
女の子はまるでトイレの花子さんでした。小学校低学年くらいで、おかっぱ。赤いワンピースを着ていました。
--トイレの花子さんなんてやったかな?
小学校の記憶を掘り返してみましたが、当時は大人ぶっていたので、そんなことを試した記憶はありませんでした。
ただもう一つ、掘り返すことのできた記憶がありました。
当時、トイレの花子さんというあだ名の女の子がいたのです。名前は思い出せません。その子とは全く会話をしたこともなく、彼女も私のことを知らなかったと思います。
私自身は彼女のクラスでいじめがあったことを知っていましたが、本当にただそれだけでした。
途中でクラス替えがあり、そこから彼女のいじめに関する噂は聞かなくなったと思います。
ある日たまたま家に泊まりにきたミユキに、このことを打ち明けてみました。ミユキは地元であったものの、小中高は別で大学から仲良くなった友人でした。
「じゃあさ、調べてみようよ。引っ越したりしてなければ、家はこの辺なんでしょ?」
「えー……」
流石に名前も把握していないクラスメイトでもない人間が訪ねたら、家族も混乱するだろう。そこで、私は先日の同窓会で一緒に飲んだ人に連絡を取ってみました。
スピーカーにして、その会話はミユキにも共有しました。
『あー俺、同じクラスだったよ』
「ほんと!? で、その子、今どうしてるかってわかる……?」
『知らなかった? 結局クラス替えの直前かどっかで死んだらしいよ』
「え?」
『不運としか言いようがないけど、その日もクラスのやつと追いかけっこ……という名のいじめか。それやってて道路に飛び出しちゃって、そのまま』
『まあ、あの性格だし、やりたい事もっとあっただろうな』
彼はそう言って、電話を切りました。
その後、二人で呆然としていました。薄々感じていた嫌な予感は的中してしまったのです。今も目の端に写っている少女は、紛れもなく花子さんなのです。
「いじめられたことや、周りの人がその花子ちゃんを助けてあげなかったから、それを恨んで出てきてるってこと?」
親友のミユキはそう言いました。
私は静かに返しました。
「それはないと思うけど……」
「なんで?」
三日後、電話の彼の訃報をニュースで知りました。道路に飛び出して、大型トラックに撥ねられたそうです。
ミユキから電話がかかってきましたが、私は出る気になりません。花子さんは、私のこともいつか見つけ出すでしょう。そして、私をかつてのように追いかけ回すのです。
だって花子さんは、人をいじめるのが大好きだったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます