第2話 尾行
飯仲さんの言葉を聞きながら僕たちは車を降り、石川七を尾行し始めた。天気は曇り。時間帯は夕方。この時間帯に外出するのは少し疑問が浮かぶ。買い物なら荷物が無さすぎるし散歩にしては下ばっかりを見て、別の目的があるように見える。軽装の石河七に注視しながら僕たちは後を追う。
「この後、十分後に自殺とかだったら笑えないね」
「不謹慎だ。セリフはもっと慎重に選んでくれ」
だが、実際この感じだと自殺する可能性が高い。失恋した人の行動パターンは主に二つ。失恋の辛さにそのまま自殺する。そして、もう一つは失恋したことの逆恨みで心中。後者の場合はかなり面倒くさい。
石河七を尾行しながら様子を伺うこと十五分くらい経った。そして、僕たちは最寄りに駅に着いた。
「おっと、動きあったね。あはは」
「いや、笑っている場合じゃないだろ」
苦笑するしかなかった。手ぶらで目的がないように見えるならそのまま自殺しようとしていると考えるのが必然。
まあ、要するに先程あげた後者が当たっていたということだ。
「まったく、用意周到に鈍器を用意しておくなんてね。駅構内ってことはここから相手のいる所へ向かうようだね」
「みんな大好きバールのようなものだな。というかそのまま隠さず電車に乗るのはヤバくね?」
「そうね。まあ、今の時代。死相見識システムがあるし、明らかに殺傷能力が高い武器を持ってても無視されるんだよね」
「はあ、そんなに依存しているとか恐ろしいな」
「それほど精度が高いって証拠よ。だから、石河七が殺そうとしている相手は今頃急激に暫定命日が短くなっていることに驚いているんでしょうね」
そんな会話をしながらいくつか乗り換えをこなしつつ一定の距離を取りながら後をついて行く。
「相手は石河七の性格を知っているだろうし暫定命日が激減していることで石河七に殺されると察知しているかもね」
「というか、そんな高度なシステムあるなら殺人を未然に防げないのか?」
「う〜ん。難しい所つくね。結論を述べれば可能だよ」
「じゃあ何でそうしないんだ?」
「結論はそうだけど過程が重要なのは。未然に殺人を防ぐシステムを構築しても色々問題が起こるんだよね」
花織は身に付けていたバンド型の装置を使い空中に映像を投影し始めた。そのなかに映したさまざまな資料に指を差しながら丁寧に説明してくれた。
「これがデモの映像なんだけど。この人たちは個人情報保護法やプライバシー権が守られていないって抗議しているんだよね。情報化により便利になるけどその分、個人情報は開示しなくちゃいけないの」
僕のつまらなそうな表情を読み取ってか知らないけれどかいつまんで説明を説明してきた。先程と同様に電車の乗り換えをしながらも話を続ける。
「ここでは、権利うんぬんの話だけど。他に問題みあるの。かおりんは全国民の死相見識のデータを一箇所に集めてそれを処理する。それも四六時中。常に更新され続ける。たとえAIにより効率化されていてもデータベースがパンクするし膨大な電気消費がかかる。ここまで言ったら分かるよね」
優しいが目が笑っていないそんな表情を示す花織に僕は少し怯えつつ答えを返した。
「つまり、実用的ではないと」
「そゆこと、理論上可能だが実用的ではない。だから、こうやって私たちが行動している。おk?」
「なるへそ」
雑談をしていたが刻一刻と状況が変化しつつあった。石河七はとうとう電車から降り改札から出た。どうやら目的地に着いたみたいだ。リストバンド型の装置をかざして改札を通りより一層気を引き締めた。
「今更だけど、僕たちなんで制服なんだ?」
「可愛いでしょ?」
「制服萌えとかあるけど、今はそういう話ではない」
お嬢様のような仕草をとりつつ僕を
「で、結局どうして制服なんだ?」
「いや〜何でだろうね」
「わからんのかい!」
「強いて言うならトレードマークかなぁ」「まともに聞いた僕が悪かった」
話が脱線しまくっているが今度こそふざけてられない状況になってきた。駅から数十分歩いたくらいで石河七は足を止めた。
「いつ、接触するんだ?」
「私の価値観だけど両者の意見とか立場とか知ってから行動したいんだよね。私のモットーは主観的に物事を解決することじゃあ!」
「キャラ崩壊してるぞ」
僕たちは石河七の動向に注意しつつ耳を傾けた。何やら不穏な口調で妙なイントネーションの嘆き声のようなものが耳に届いてきた。
「
狂気じみた声を発しつつ手元に持っているバールのようなもので素振りをしている。これは確実に獲物を殺す時の目だ。
一、二分が経ったがドアが開く気配は一切なかった。そんな状況に痺れを切らした石河七はとうとう行動に出た。
「出てこないんだったら......。死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ!」
轟音を立てながら振り下ろされ続けるバールのようなものの破壊力はとてつもなく、耐えきれなくなったドアノブが鈍い音を立てて地面に落ちた。
「あちゃ〜。もっと防犯しっかりしないと」
「実はお前、楽しんでんだろ」
「あ、バレた......?」
ゾンビのような足取りで銃砲刀剣類所持等取締法、器物損壊罪、住居侵入罪に引っ掛かっている石河七についていく。
それより今の時代にアナログのセキュリティなのは少し疑問だ。ほとんどの人は生体認証を使った場合が多いのに。
「ゆうくん出てきて〜。私〜ゆうくんのことだ〜いすきだよ。ゆうくんは〜。私のこと〜嫌いなの〜?」
階段を登り一直線に向かっていった。まるでどこに居るのか知っているみたいに。実際何度かはここに来たことがあるのだろう。本性をあらわにしていない時に。
「やめてくれ!!」
悲痛な叫び声が聞こえてきた。
ヤンデレと化している形相で夏川優斗をジリジリ追い詰めていくのである。物陰に隠れながら様子を確認する。
「許してくれ! 悪気は無かったんだ」
「二股とか許されると思ってるの? 人の純情を弄ぶなんて死んで償えッ!!」
数分経てば人が死んでそうな喧騒を目の当たりにしながら緊張感のない声が隣から漏れ出てきた。
「いや〜怖い怖い。まあ、男が悪いみたいだし」
「ヤバくないか? と言うか今更すぎだけどノープランなのか?」
「そうね。ま、今回は男が悪そうだしこのままでいいんじゃない?」
「待て待て、主観的すぎやろ。と言うか石河七の自殺を止めるのが目的なの忘れてないか?」
殺人を起こしてしまうと自殺するために決心が確固たるものとして確立されてしまうので依頼を達成するには殺人を止める必要がある。
「あ、そうだった。じゃあ、そろそろ行きますか」
重い腰を持ち上げ、未だに緊張感がない声で威風堂々な様子を示している。
そして、開かれたままの部屋に勢いよく飛び入り堂々と宣言した。
「救命探偵、登場!!」
胸を張りながら凛とした態度で告げた。
「石河七。あなた自殺しようとしてない?」
「何言ってんのあんた。邪魔しないで。どこから来たの? 殺されたいの?」
「私には分かるの」
「何がわかるって?」
「自殺しようとしている人の匂いが」
全人類に告ぐ 星彩 @-seisai-
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