全人類に告ぐ

星彩

第1話 自称、救命探偵

 僕こと漸深香織ぜんしんかおり花織はなおり薫衣草???の出会いを話すと長くなってしまうだろう。なのでまず、僕たちの関係を見てもらう方が早いだろう。


 僕たちの生きる世界。何でも技術的な進歩が凄いらしい。らしいと伝聞なのは僕たちがその進歩を見ていないからだ。科学技術の進歩の例を挙げれば、空飛ぶ車とかホバーボード、空中ディスプレイ。けれど、最も進化したのは情報系だった。そして、その一番の恩恵と呼ばれるのは死相見識しそうけんしきと呼ばれるシステムが開発されたことだ。

 科学技術の発展により街中の防犯カメラやウェアラブル端末により死期が近い者の判断が出来る様になった。病状や統計的なビックデータにより暫定的な命日を導出できるようになった。

 まあ、簡単に表すなら死ぬ日が分かるようになったという事だ。でも、僕の言いたい事はこれではない。むしろこの死相見識システムは主に別用途で使う人がいるということだ。

 単刀直入に述べると自殺防止に使われているということだ。そして、その最前線にいるのが花織薫衣草。

 ------自称、救命探偵である。


「やっほー。かおりん!」

「おい、何度言えば分かる。僕をその名前で呼ぶな」

「だって漸深ぜんしんって苗字は呼びにくいじゃん。私的には『かおりん』が呼びやすいんだけどな」

 毎度のやり取りをため息混じりに流しつつ僕はこれまたいつものように花織に問う。

「僕をここに呼ぶって事はまた依頼されたのか? それとも街中で見つかったのか?」

 ここというのは勿論、花織薫衣草の探偵事務所である。自称であるが、探偵事務所は所有しているのである。とまあ、そんな説明はさておき。

「そうね、今回は依頼されたわ。自殺防止課は猫の手も借りたいようね」

 自殺防止課。近年新たに設立された生活安全局の中の一つである。花織は警察のお偉いさんに依頼されるような凄い人ということだ。こんな性格でも。

 花織は昔から他の人と違っていたことがある。その有効性に目をつけられ今では便宜上探偵として色々と警察の捜査に関わっている。事実では便利屋みたいなことになっている。

「生活安全部、巡査の飯仲桃李いいなかとうりと申します」

 ノックと共に入室してきた。今回の顧客はこの人だ。僕たちにとってはそれなりに面識のある人だ。こういう類の依頼も今回が初めてというわけではない。

「ご苦労さん。じゃあ、行こっか」

「花織、敬語つかえよ」

「いいじゃない。私たちの仲なんだから。それに今更そんなこと言われてもね」

「飯仲さん。いつもすみません」

「いえいえ、こちらこそ花織さんの力を貸してもらっているので」

 そんないつも通りの会話をしながら僕たちは事務所を後にする。依頼の内容というのはほとんどが現場に行く必要がある。あと、それなりに危険があることが多い。僕たちは車に乗り話の続きを聞く。

「今回の目標は石河七いしかわなな。女性。現在、高校一年生。君たちと同じだね。両親は共に健在。死相見識システムでは石河七の自殺実行率は95.6%。おおよそ一週間以内に自殺すると算出されている。この分だと今日の可能性もある。動機は不明、死相増加傾向は指数関数的」

 最初の頃はなんて言っているのかほぼ意味不明だったが、今では何となく理解できるようになった。要するに失恋の可能性が高いというわけだ。勿論、花織もこのことに気づいているだろう。ちらりと表情を伺うといかにもつまらなそうな表情をしていた。

「女という生物はよく分からないね。どうせまた失恋なんでしょうけど」

 悪態をつきつつ保護者目線の花織は面倒くさそうにしているが態度とは裏腹に優しい性格なのである。

「到着しました。この家がそうです」

「なんだか物置みたいな家ね」

「やめろ、それは普通に悪口だぞ」

「そう? 客観的事実を述べたまでよ。それにこの雰囲気きなくさいね」

 目つきが鋭くなった。こういうのを見ると花織は探偵としての誇りを持っていると思わざるを得ない。

 花織は何かを嗅ぎ取るような仕草を見せ僕とは違う視野で物事を見ているようだった。

「あ、出てきた。あの子が石河七。今回の目標です」

「それじゃあ、救命探偵として行動を開始しましょう」

「気をつけてくれ」

 飯仲さんの言葉を背にしつつ僕と花織は車から降りた。

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