俺は今日、鉱山を出る②
そして、ミカリーナは相変わらずどうにか楽をしようとしているようだ。割り当てられた仕事ものらりくらりと躱そうとしては失敗を繰り返している。そのたびに罰として、食事の後の片づけまで命じられる。それもまたどうにか躱そうとするがうまくいくことはない。
女性も男性も同じように仕事をしているここでもやはり女性の管理は女性が行い、男性の管理は男性がしている。そのため、管理者に色仕掛けすることも出来ないようだ。なぜ色仕掛けかというと、男性の管理者に色仕掛けをしようと何度も試みているからだ。
「仕事がきつい」「女性管理者に嫌われているからわざと自分だけがきつい仕事をさせられている」「自分だけ不当な罰を受けている」そんなことを言いにどうにか男性管理者に近づいているのだ。だが、男性管理者も話しを聞き、問題がないとわかった時点で女性管理者へ即引き渡している。するとまた罰則を与えられる。
そしてそれとは別に鉱山に入ってきた比較的若くて、顔立ちが整っている男を見れば色目を使って、身体の関係を持とうとしているんだそうだ。だが、以前は可愛いと思っていたミカリーナの容姿も、ここに入って金の力を使って着飾ることもしなければそうでもない。
ミカリーナなんかよりも、ここでは必死に働いている女性の方がよっぽど魅力的に映る。だからというのもあってか、誘いをかける誰からも見向きもされない。
だからなのか、元犯罪者で性欲が我慢できない男から求められても、自分は求められていると勘違いし、身体を許してしまうそうで、あれから2度妊娠したそうだ。だがそのたびに前回のこともあるし、この環境下での妊娠は望ましくないとされ、中絶の薬を渡され、堕胎したらしい。2度そんなことがあって、妊娠しない身体になったそうだ。
そんな話しを同部屋の奴に聞いたときはさすがに頭がおかしいのではないかと思った。だがきっと、以前の立場にいたおれならば……
男性管理者に言った内容を訴えられればきっとミカリーナの訴えを信じてしまっていたのだろう。そしてよく調べもせずに訴えの相手を責めていた。シャロンにしたように。
最近俺はよく思う。俺はなんて浅はかだったのかと。
目の前に幸せな将来がぶら下がっていたにも関わらず、わざわざ不幸になる道を選んでしまった。それもミカリーナの為と思って。
今ならミカリーナのせいだなんて思えない。俺自身のせいだ。ミカリーナでなくてもそうしていたかもしれない。俺がシャロンの有能さを疎んじ、自分の無能さを認めなかったせいだ。いや、無能かどうかの前に俺は必死に努力などしていなかった。どれも俺のせいでしかないんだ。
ここでの部屋を分けられることもかなり検討されたようだが、3年間様子をみて、同じ部屋であることが仕事への悪影響を及ぼしかねないと判断され、部屋を分けられたそうだ。
本来家族全員で鉱山に来ることなどほとんど例がなく、その判断は難しいものだったらしいが、俺が必死に仕事をしていたからそう判断してくれたらしい。
そして、支払うべき慰謝料などの金に関しても均等に6分割されたそうだ。本来男性の方が多くてもよさそうなのだが、その働く態度や罪に向き合う態度を鑑み、こちらも判断された。
だから俺は20年目の夏の今日、鉱山から出ることが出来る。
俺とミカリーナの離縁は認められないと言われていた。俺自身も諦めていたし、別に離縁したからとなにが変わるわけでもないので、かまわないと思っていた。
だが、夫婦だと慰謝料などの連帯責任もあり、どうすべきか話し合われていたそうだ。
そして、俺の働き、20年で外へ出れることを報告すると離縁を認めてくれたそうだ。シャロンたちがそうするようにと進言してくれたそうだ。いや、もうシャロン様だな。
だから俺は今日外に出ることが出来るんだ。
久しぶりに太陽を見た。
当たり前に近くにあった木を見た。
鳥が空を飛んでる。
以前は感じることもないほどに当たり前だった。
この光景がこんなにも素晴らしいなんて。
愚かすぎた俺。時を遡ることなんて出来ないし、そうしたいとも思わない。きっとこの20年の経験がなければ俺はこんなこと思えなかっただろう。
だからこれから先どうやって生きていくかなんてまだわからないが、周りの人に感謝し、生きていこう。
鉱山の中で出来たように必死に仕事をして、必死に生きてみよう。
育ててやることも出来なかった娘がいた。だが会いたいとは思わない。こんな父親、会うことが幸せだとは到底思えない。だが、どうしているのかだけは調べてみよう。出来ることなら幸せにいてほしい。俺たちのように道を踏み外すことなく、ただ幸せに生きてほしいと願う。
ご結婚おめでとうございます~早く家から出て行ってくださいまし~ 暖夢 由 @jpa
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