俺は今日、鉱山を出る①
鉱山で働き始めて20回目の夏が来た……
俺は今日鉱山を出る。
いつ死ねるんだろうかと思ってたのに2度目3度目の季節もやってきた。体調が悪い時もあったが、その時はしっかりと治るまで休養させられた。
ここにきて5度目の季節の時はやっと死ねると思った。医者が言うには重度の肺炎を起こしていたそうだ。もう放っておいてくれと思った。本当に苦しくて、やっと死ねるんだと思った。でも医師や看護師は心配そうに何度も様子を見に来てくれた。息を吸うのさえ苦しいときには背中をさすって、夜通し傍にいてくれた。その様子を見ていたら簡単に死んではいけないんだと知った。知ったけど…俺は何のために生きているのかわからなかった。
鉱山で働き始めて色々なことが変わった。まず最初に6人部屋に入れられ、全員で生活し、赤ん坊も生まれた。だが、誰も面倒を見ようとせずに結局赤ん坊は手放した。
それから俺は必死に働いた。償いをしようだなんて思ったわけではない。それしかやることがなかっただけだ。やることがないから必死に働く。
そしたら3年目。俺は別の部屋で生活することになった。そこにはここで働く人が3人で生活していた。俺が部屋を訪れると全員自己紹介してくれ、俺を迎え入れてくれた。貴族でもない俺。ただの人として迎えてくれた。そんなきっと当たり前のことが無性に嬉しくて、俺はその夜寝具の中で涙を流していた。
部屋が変わってもやることは変わらなかった。ただひたすらに仕事をする。仕事をしてくたくたになって食事をとって、少しの自由時間を部屋で過ごす。
だが変わったこともあった。部屋が変わり、自由時間に話す人が出来た。家族で入れられた部屋では毎日ギスギスとし、だれも口を開かなかったのに、他人と入るこの部屋では寝るまでの少しの間、他愛のない話しをする。月に数回、酒を飲む時間まで出来た。
家族で居た時間より、この部屋でいるほうがずっと居心地がいいなんて。
部屋を出てからも何度か家族の様子は見ていた。
父上とミカリーナの父親は最初こそぶつぶつと文句を言っていたが、やるしかないと諦めがついたのかしっかりと仕事をするようになったようだ。たまに俺は侯爵だなんて言っているときもあったようだが、いうたびに周りから冷たい目で蔑んだように見られることに耐えられなくなったのか、そういうこともなくなっていった。
そして父上たちも別の部屋に移動することが出来たようだ。
同じ部屋になりたいとは思わないし、あまり話しをしたいとも思わないが、お互い必死に働き、いつかここを出れればいいなと思っている。
母上とミカリーナの母親に関してはどうしても貴族時代に戻りたいようだ。男に混ざって必死に仕事をする女性を馬鹿にしては「はしたない」と言っている。そんな事をいうたびに周りからは嫌われ、誰とも話しをすることも出来ない。きっと仕事のやり方ももっと楽な方法だってあるのにそんなことすら教えてもらえないんだ。
でも今ならわかる。あんな態度の人には誰も物を教えようなんて思わない。教えてもらえないあの人たちに原因があるだけだ。
私たちが部屋を出たことで元々6人で生活していた部屋は大きすぎると判断され、母上とミカリーナの母の2人部屋になったようだ。きっと狭いと騒いでいるに違いないがその様子は見ることがないので、よかったと思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます