名前はルイーナ ⑨

そう、私は両親にさえ愛されないいらない子なのに………


「ねぇ、ルイーナ。『父親の分も、母親の分も愛をあげる』私が以前素敵な人から頂いた言葉よ。私たち家族があなたにたくさんの愛をあげるわ。あなたが生まれて来てくれて、本当に嬉しかったのよ。あなたとこうしてお話ができて私は幸せなの。あなたからたくさんの幸せを貰ってるわ。だから私たち家族にもあなたを愛させてちょうだい」


「ふっ……ぅぅぅ……ぅぅぅ…………」


そこからは生まれて初めてこんなに泣いた。声をあげて誰かの前で泣いた。

シャロン様が抱きしめてくれていて、ジョージア様も背中をさすってくれる。


「ルイーナ、あなたのことが大好きよ」


「ルイーナ、生まれて来てくれてありがとう」


そんな言葉をシャロン様が一言ずつくれるたび今まで必死に心を覆っていたかたい殻がはがれていくようだった。


そして落ち着いたときにシャロン様はハンカチを私に渡して下さった。

涙を拭くようかと、そのハンカチを見つめると、見覚えがあった。これはまだ私が10歳くらいの時、初めて刺繍したハンカチを養護院で販売したもの。

全然上手じゃないのに全部売れて、とても嬉しかったのを覚えている。

だからあれから練習して、今ではそこそこうまくなれていると思う。


「あ、あの、これっ!」


「ふふっ、覚えてる?実はあなたが刺繍したものを初めて販売するって聞いてね。養護院で買っちゃったの」


買っちゃったのって。


こんな下手くそな刺繍。絶対侯爵様は持っちゃいけないのに。

それなのに…

私には誰もいないってずっと思ってた。それなのにずっと前から気にかけてくれてたんだ……



もう涙が止まらないよ………



「それでね、あなたに仕事をお願いしたいの」



………………仕事?



「うちでね、刺繍職人を探しててね。もしよければそこで仕事をしてもらえないかと思ってるの。どうかしら?」



………………仕事?……刺繍………………?



「やります!!!」


「あら、色々考えなくていいの?ほかにやりたいこととかあれば無理にとは言わないんだけれど」


「いえ、仕事探さなきゃと思っていたので、刺繍を仕事にできるのならやります!!やらせてください!!」


刺繍の仕事は経験や人脈が必要となる仕事で、私にはその人脈もなく、仕事ととしての経験もないのでほとんど諦めていた。

それをこんな風に声をかけていただけるなんて、やるしかない!!


「ふふっ、なら明日にでも職場に案内するわね。ローシャ服飾店ってわかる?」


「………ローシャ服飾店ですか?あの有名店ですよね」


ローシャ服飾店は30年以上前にできたという今でも大人気のお店です。


ドレスはもちろんそれに合わせた小物も相談出来たり、最近は男性の服も合わせてオーダーできるとのことで、さらに人気が上がっています。皇室御用達のお店として貴族様から大人気なのですが、それとは別店舗として平民街にも小さな店を出し、平民にも手を出しやすい品物があるといいます。


「あら、知ってるの?嬉しいわ。あの店、私が若いころに作ったお店でね。そこの刺繍職人として働いてほしいと思っているの。どうかしら」


「も、もちろん!!光栄すぎるお誘いです」


「ふふっ、よかった。じゃあよろしくね」

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