第6話 Soupir d'amour 恋の溜息⑤
「聞いたぞシャルロット。今日のピアノとダンスのレッスンなかなか良かったそうじゃないか」
さてさて、日が沈むのが少し早くなり紫色の空が広がってオレンジ色の太陽と混ざり合い静かに夜の帳を告げております。
やがて深い瑠璃色の空にどっぷりと沈んで清らかな虫の音が奏でられる時分、少し遅めのディナーでは、芳醇な赤ワインのグラスを手にウィリアム様がにこやかにシャルロット様に話しかけられております。
「…陛下、ちゃんと私の報告聞いていました?」
「もちろん聞いていたとも。ワルツステップも大分様になって来たようだって」
「なぜか訳の分からないタイミングで転調するピアノソナタを延々と聞かされ、何度私の足が踏まれそうになったか、陛下…私申し上げましたよね?」
「ん?でもだいぶマシになったんだろう?」
「そりゃ始めた頃よりかは」
「じゃあよかったじゃないか」
「…」
後ろに控えていたヴィンセントが呆れた顔でニコニコと微笑んでいるウィリアム様を見つめております。
シャルロット様はもぅ!とヴィンセントの方を見て頬っぺたを膨らませてふくれっ面を見せますが、それをヴィンセントは涼しい顔でシレッと見返します。
「明日もレッスンがあるんだろう?私も少し時間があるから一緒に踊ろうか」
「本当!?お兄様と一緒に踊れるなんて夢みたい!」
「陛下、頑丈な靴を履かれることをお勧めいたします」
「もぅ!ヴィーったらっ!!」
ヴィンセントのツッコミにシャルロット様はさらに頬っぺたを膨らませます。相変わらずハイハイ、と言った顔でヴィンセントがシャルロット様を見返しておりますと、ウィリアム様はワインを一口口に含んだあと笑いながらお二人を諌めます。
「あははは!まぁまぁ二人とも。でもシャル、ヒールで男性の足を踏んでしまったら大けがになるから気を付けないと」
「それもそうよね。でもドレスの裾捌きが難しくて」
「まぁこればっかりは慣れだろうな。私たち男性側もマントの捌き方とか難しいぞ?」
「そうなの?」
「あぁ」
「どうしてあんなに踊りにくい格好で踊らなければならないのかしら。もっとドレスの裾も短い方が良いわ」
「扱いにくいものをいかに難なく扱えるかがエレガントさなんだよ、シャル」
「変なの」
「まぁ最初から快適にしていた方が良いに決まっているけどな。基本的に大半の貴族なんて暇だからな。こねくり回すんだよ」
「…訳分かんないわ」
「まぁそういうものなんだよ」
空になったグラスに給仕係の青年がワインを注ぎます。ありがとう、と一言告げてもう一口ウィリアム様はワインを飲んで喉を潤されました。
「お兄様飲み過ぎじゃない?」
「そうか?」
「いつもよりお替りが多いわ。そんなに飲んだら酔っぱらっちゃうじゃない!」
「私は酔わないから大丈夫だよ」
「でも心配しちゃうから飲みすぎないで」
「わかったよ。じゃあもうこれでおしまいにしよう」
大きな瞳でジッと心配そうに見つめられてしまったのでウィリアム様は仕方ないなぁと言った様子で了承されました。そしてゆっくりとワインを口に含んで堪能されると、給仕係の青年に合図をして紅茶をリクエストされました。
「そう言えばお兄様、今日はどちらまで行かれていたの?」
「ん?今日はラフィーヌ市だよ」
「ラフィーヌ?」
「あぁ。二年後に行われる博覧会の下見だ」
「博覧会!」
「あぁ。ラフィーヌは昔から染物が有名だし、あの一帯は織物や工芸品も有名だしな。他国でも買い付けに来るほどだし我がローザタニアで博覧会を行うにはあそこが最適だろう」
「楽しみだわ!」
「博覧会の会場の付近に複合施設や飲食店、宿泊施設も出来るだろうし、あの辺りはもっと賑わうだろうな」
「ラフィーヌ…行ったことが無いから是非行ってみたいわ!」
「そうだな」
「博覧会も今から楽しみだわ!」
「そのためにも今からダンスをしっかりと練習しておかないとな」
「…はーい」
「じゃあ明日も宜しく頼むぞ、ヴィンセント」
「明日もですか?」
「もちろん」
ニッコリとウィリアム様が微笑まれると、エッと眉間に眉を思いっきり顰めながらヴィンセントはパッとウィリアム様の方を振り向きます。シャルロット様も手に持っていたチョコレートを落としそうになるくらい驚いて目を見開き、ヴィンセントと同じくウィリアム様の方を思いっきり見つめました。
「ヴィーとは嫌よ!厭味ばっかり言ってくるし!」
「私だってもうこりごりですよ。陛下、今日一日だけと言うお約束で姫様のお相手をさせていただきましたが」
「どうせ明日の会議はただの報告だけだから30分で終わるだろう?だったら時間が空くし、お前も時間取れるだろう?だったらいいじゃないか」
「いや、そうじゃなくて…」
「仕事に復帰して以来毎日毎日ずーっとデスクで書類とにらめっこじゃあ窮屈だろう?たまにはリフレッシュでいいんじゃないか?」
「…違うストレスが溜まりそうですけど」
「身体を動かすのは気持ちいいからなぁ、ダンスのレッスンで気分転換だ」
「陛下、私の話聞いてます?」
「ん~?聞いているとも」
「聞いてないし」
ニコニコと微笑みを崩さずにウィリアム様はヴィンセントとテンポよく言葉を飛びかわします。
こりゃもうダメだ、とヴィンセントが諦めてはぁ…と一つ大きく溜息をついて分かりましたよ…と呟きました。
「…お兄様も教えてくださる?」
「んー?もちろんだとも」
「…お兄様だけが良いわ」
「私だって他の仕事したいですよ。でも陛下の命令ですから」
「まぁまぁ二人とも。シャル、ヴィンセントは私よりダンスが上手いんだから教えてもらうようお願いするのは当たり前だろう?多少毒も吐くけど、教え方は分かりやすくて上手かっただろう?」
「…確かにそうだったけど」
「お前に厳しく言う人間も必要だよ。私だとつい甘くなってしまう」
「甘いだけが良いわ」
「そんなんじゃ世知辛い世の中渡っていけませんよ姫様」
「世知辛いって何?」
「…ほら。ね?勉強しなさいってことですよ姫様」
「何もそんな厭味ったらしく言わなくったっていいじゃない」
「エスプリと言ってください」
「もう!訳分かんない!」
「こらこら二人とも…その辺にしておきなさい。さぁシャルロット、もう明日に備えて休もうか。先に失礼するよ」
「えぇお兄様。おやすみなさい」
「おやすみ、私の可愛いシャルロット」
ウィリアム様はスッと席を立たれ、シャルロット様の滑らかで柔らかい頬にキスをすると口元に笑みを浮かべて踵を返されました。ですがすぐにあ…とふり返り、ヴィンセントの顔を見ながら話しかけます。
「あぁそうだ…ヴィンセント、後ほど私の書斎に来てくれるか?」
「…は」
そう告げるとカツカツカツ…とヒールの音を響かせて食堂を出て行かれました。
シャルロット様は頭上で交わされる二人のやり取りを追っておりましたが、ヴィンセントの方を小首を傾げて覗き込みます。
「なんですか?」
「ヴィー何かしたの?」
「今日は姫様の相手しかしてません」
「そう?じゃあお仕事の話かしら。…いいなぁヴィーは」
「は?」
「だってお兄様とずっと一緒に居られるんだもの」
「仕事上のパートナーですからね」
「私もずっとお兄様と一緒に居たわ」
「…ブラコンですね」
「お兄様は世界で一番かっこよくて素敵なんですもの!当たり前よ!」
「…兄離れできるように頑張りましょうね」
「お兄様以上に素敵な方なんて居るのかしら…」
「姫様、男性に対するハードルめちゃめちゃ高くなってますよね」
「そうねぇ…。いつか素敵な殿方と夢のような恋が出来る日が来るのかしら」
「その場合は頑張って
「…分かったわよ、明日もちゃんと頑張るわ」
「珍しく素直ですね」
「一言余計よ」
「…失礼いたしました。それでは姫様もお部屋に戻りましょうか」
ヴィンセントに促されてシャルロット様は立ち上がると、目の前に差しだされた手を取って皆にごちそう様でしたと一言告げるとヴィンセントと共に食堂をあとにしたのでした。
・・・・・・・・
「はぁ~…本当に今日一日全然ダメダメな日だったわ」
シャルロット様のお世話も終わり、慌ただしい一日が終わりセシルはぐったりとした表情でお城の裏庭のベンチで大きな溜息と共に肩を落としました。膝に頬杖をついて空に瞬く星をぼんやりと見つめていたセシルに、穏やかで柔らかい声が頭上から降り注いできました。
「セシル!」
「わっ!ビックリした…!エレン!久しぶりね!!」
驚いたセシルが振り返ると、そこには柔らかい栗毛色の髪に薄いブルーの瞳の執務秘書官の制服を着た青年がベンチの後方のテラスからセシルを覗き込むようにして声を掛けてきました。
「驚かしてゴメン!…こんな夜に女性が一人でいるなんて危ないよ」
「やだエレン…お城の敷地だもの、大丈夫よ」
「まぁそりゃそうだけれど…。あ、これ食べる?さっき差し入れで調理室から貰ったんだ」
後方のテラスから降りてきて、スッとエレンはセシルに手に持っていたお菓子を差し出します。セシルはにっこり微笑んでエレンからそのお菓子を受け取り一口頬張りました。出来立てだったようで、まだほんのりと温かい焼き菓子からは疲れた身体を癒すかのような甘いバニラの香りがセシルの口の中に広がります。
「ありがとう、エレン」
「どういたしまして。セシル、星が綺麗だね」
「ホントだぁ…」
「ちょっと涼しくなってきて空も高くなったからかなぁ。あ、ホラ…あの輝いている星は金星かなぁ」
「え~?どれ??」
「あれだよ、あの金色に輝く明るい星…」
二人は肩を近づけながらお庭から見える夜空の星を眺めております。まるで幼い子供が一緒に楽しんでいるかのように、屈託のない笑顔で二人は和気あいあいと空に向かって星を指さしておりました。
「あ…あれね!綺麗…」
「…元気出たね、セシル」
「!」
「ずっと浮かない顔していたのを見ていたから心配したよ」
「…ありがとう」
エレンはまるで淡い湖のように美しい瞳をニッコリと細めてセシルを覗き込み、優しく微笑みます。セシルはエレンの優しい笑顔をふいに向けられて少しドキッとしております。
「いつも元気なセシルが元気ないと、俺も元気なくなっちゃうよ」
「うん、心配かけてゴメン」
「話なら聞くよ?だって俺たち…幼馴染じゃないか」
「…ありがとうエレン。でも…もうちょっと自分一人で考えたいの」
「そう。じゃあまた話したくなったらいつでも俺の所に来てよ。セシルの悩みならいつでも聞いてあげる」
「ありがとう…」
「気にしないで!言っただろ、俺たち幼馴染だろ!」
「エレン…」
ニッコリとまるで温かい陽だまりのように微笑みセシルの顔を覗き込むエレンと目が合い、セシルは少し何だかドキッと胸が高鳴るような気持ちを感じました。何だか少し頬も熱くなったようにも感じます。エレンはそっとセシルの頬に手を寄せ、そのままお顔を近づけていきました。
「エレン…?」
「…ゴミ付いてる」
「!やだ…恥ずかしいっ!!ごめんエレン、ありがとうっ!!」
「ううん、気にしないで。さぁ…夜も遅いからもう帰ろうか。送るよ」
「え、悪いわよ!」
「お城の中とは言え夜道は危ないよ?今日はデスクワークで全然動いていないから身体がなまって重たいんだ。運動の散歩がてら送るよ」
「…じゃあお言葉に甘えて…。ありがとう、エレン」
エレンはスッと立ち上がり、セシルにサッと手を差しだしました。
セシルは少し照れながらその手を取り立ち上がると、そのままエレンと手を繋いで歩き出しました。
「はぁ…もう今日はいったい何なんだよぉ~…。もうここんところ最近俺厄日の連続じゃね?」
大きな溜息をつきながら、ケヴィンは疲れてヘロヘロの状態で廊下を歩いておりました。
書類を何度も何度もいたる所にぶちまけてしまい、一緒に書庫の整理をしていたグレヴを冷や汗だらけにし、そんなグレヴの悲鳴を聞いて駆け付けたバルトの顔を真っ青に染め上げ、さらにシャルロット様とのダンスレッスンが終わってかなりお疲れモードのヴィンセントに思いっきり色々厭味をネチネチ言われて干物のように精根尽きてヘロヘロした状態になっておりました。
「はぁ…もう…こんな時はセシルに会って癒されたいよぉ…。あ、でも今俺たち距離を取るんだった…。って…あれはセシルっ?!何でアイツこんな所に…って…あれ…」
ケヴィンがフラフラしながら廊下を歩き、お城の裏庭に差し掛かった時です。
裏庭のベンチに座っているセシルの姿を発見しました。条件反射で思わずセシルに声を掛けに行こうとした瞬間、セシルの背後から見覚えのある人物―――…エレンが現れました。
「エレン…何でこんな所に…」
少し遠くにいて何を話しているのか全く聞こえない状況でしたが、二人が何やら楽しそうにしている姿を見てしまったケヴィンはそのままそこから動けなくなってしまいました。二人は肩を近づけて顔を寄せ合い、何だかとても仲睦まじげに話している様子がケヴィンの目に入ってきました。
そして少し見つめ合った後、顔が重なった二人はベンチから立ち上がりそのままセシルの部屋の方へと消えて行ったのでした。
「…え?今の何…?どういうこと??」
ケヴィンはしばらくその場に立ち尽くして二人の後姿を見送っておりました。仲睦まじげに笑い合っている二人の様子がケヴィンの頭の中をリフレインします。ケヴィンはどことなく胸騒ぎを感じて、ふとキラキラと星が煌めく空を見上げたのでした。
・・・・・・・・
「ごめんねエレン…遠回りなのに送ってもらっちゃって」
「ううん、俺も近くを通るつもりだったし気にしないでよ!」
「ありがとう。本当エレンって優しいのね」
「セシルは大事な幼馴染だからね!」
「エレン…」
「…ケヴィンとセシルは俺の大事な幼馴染だから。俺は二人のこと大好きだし…」
「ありがとう」
静かな中庭を抜けて使用人たちの住居エリアがある別館へと歩いて行きます。夏もすっかり終わり、虫の声が涼しげな爽やかな風と共に二人の周りを通り抜けていきます。
「もう夏もいつの間にか終わっちゃったわね」
「そうだね。もう言えばもうすぐケヴィン誕生日だね。今年はどうするの?」
「そうねぇ…アイツの誕生日…もうすぐだったわね」
「…何か風の噂で二人がケンカしているって聞いたんだけど、本当みたいだね」
「ケンカっていうかなんて言うか…そのちょっと距離置いているだけよ」
「…大丈夫?セシル」
「うん…」
少し口ごもってしまい、シュンとしてしまっているセシルをチラッと見て、エレンはそっと優しくセシルの肩に手を置きニコッと柔らかく微笑みます。エレンのこの笑顔に弱いのか、セシルもつられてはにかむように微笑みエレンの顔を見上げました。
「…俺さ、今日ケヴィンの代わりに初めて陛下の警護隊の長を務めたんだけど…あんなに神経張り巡らせて移動するの初めてで…あんな大変な仕事毎回やっているケヴィン凄いなって改めて思ったよ」
「エレン…」
「ケヴィンってさ、いつも周りの皆がどうやったら動きやすいかって凄い考えているんだよね。凄い周りを見てる。だからいつもスムーズに進むんだよ。俺…今日全然上手く出来なくてさ…」
「それは今日初めてだったからじゃないの?」
「うーん…でもいつも警備の長じゃなくても、警備の任務には就いていたじゃん?だから知っているハズなのに全然統率とか取れなくてさ…。もう俺全然ダメだった」
「エレン…」
「ケヴィンのあの求心力や洞察力って凄いよ。それに太陽みたいに明るくってさ!軍でも…いつでも明るくて前向きで―――…俺なんかと違ってケヴィンの周りにはいつだってたくさんの人の輪が出来ているんだ。こ」
「ただの天然で人当たりが良いだけよ!」
「そんなことないさ」
「執務秘書官と軍隊を兼任してたエレンの方が凄いわよ!それにその若さで国王補佐官兼執務長官副長官になるだなんて凄いわ!」
「う~ん…でもほら俺…そんなに身体強くないし。どっちかって言うと事務職の方が向いているからそっちに全振りした結果だよ」
「そうなの?」
「そりゃあヴィンセント様はめちゃめちゃ怖いけど…。剣や弓とか…人を傷つけるものを持つ方が俺は怖い」
「…剣の腕はケヴィンの次に次ぐくらいの腕っぷしなのに?」
「でもそれは練習でだけでのことだよ。俺は…例え悪い人たちだったとしても力で押せつけたくないんだの間のあの事件の時だって…ヴィンセント様の出血を見て気絶しちゃったし」
エレンはグッと握りしめた自分の拳を見つめておりました。白くて綺麗な手には厳しい訓練の痕でしょうか、所々傷の痕が見られます。
「…エレンは昔から優しすぎるのよ!」
「そうかな?」
「そうよ。ねぇ、覚えている?小さい時、ケヴィンとエレンと私と三人でお城の外のケフィスの森に蛍を見に行こうって言った時のこと。案の定迷子になっちゃって一日中森の中で彷徨っていて…。私がポケットに隠し持っていた小さなパンを三人で分けようって言った時…エレンは自分の分をお腹がグーグー鳴りまくっていたケヴィンに分けてあげていた。自分だってお腹グーグー鳴っていたのによ?」
「よせよ、そんな昔の話…恥ずかしいよ」
「恥ずかしい話なんかじゃないわよ。それにエレンは真っ暗な森の中で怖がって泣きじゃくる私の手をずっと握っていてくれたじゃない。私…それがとても嬉しかった」
「…セシル」
「エレンみたいな優しい人が彼氏だった幸せなんだろうなぁ~!」
「…じゃあ俺と付き合ってみる?」
「…え?」
エレンの唐突な一言にセシルは驚いて目を大きく見開いております。セシルの真顔過ぎる驚いた顔が面白かったのか、その顔を見てエレンはプッと吹き出すとそのまま笑い続けてセシルの背中を叩きます。
「あははは!冗談だよ!さぁセシル、もう遅いし行こっか」
「…う…うん」
「さぁセシル」
エレンはニコッと微笑み、行こうかと声を掛けるとセシルの手を取って歩き出しました。
手を繋がれてちょっと驚いたセシルでしたが、幼い時のようにギュッとその手を握り返します。
あの時と違っていたのは、エレンの手が自分の手を包み込む程の大きくて厚くなっていた、ということを思い、セシルは少し顔を下に向けてエレンと一緒に自室へと帰って行ったのでした。
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