第5話
明人は午後の授業を受けて、ボロアパートに戻ってきた。
「……猫だよな」
猫の丈は部屋の座布団に寝そべっていた。足を投げ出して、とてもリラックスした様子だ。
「何、人のことジロジロと見ているんだ?」
「え。いや、何でも……」
明人は目をそらして畳の床に荷物を置いた。どういうことだろうか。丈が人間と猫、二人存在するなんて。まさか、この丈は偽物かと思うが、この数日で話した中学時代の思い出は紛れもなく明人と丈のものだった。
丈は明人の様子が違うことには気にせず、身を起こして頭を後ろ足でかきながら言う。
「そういや、ミカエル知らね?」
「ミカエル?」
天使のミカエルのことだろうか。
「俺の舎弟になった野良のやつ。最近、姿が見えないんだ」
「いや、何で俺に聞くんだよ」
「それもそうだな。明人、スマホくれ」
毎日明人が帰ると丈はTwitterをチェックするのが常だ。ん、と明人は丈にスマホを渡した。慣れた様子でパスコードを入れて、Twitterを起動する丈。
「なに!」
丈が何やら声を上げた。
「どうした?」
「DMが来ている! まさか、俺のことを気に入ったスカウトか!?」
猫をスカウトというと、ドラマでの演技やCM撮影だろうか。確かに丈は話が通じるのでその手の演技は他の猫より出来そうだ。
「開けてみるぞ。……お前にだ」
まぁ、そうだろうと明人は思った。わざわざ猫宛てにメッセージを送るとは思えない。飼い主の明人に送るのが普通だろう。
「それで、なんて?」
「ん」
丈はあごで液晶画面を示す。明人はスマホを手に取り、読み始めた。
「なになに。彼女は預かった。無事に返してほしければ、君の猫を連れてここにやってくること。差出人はサイエンティストXぅ?!」
彼女とは江原さんのことだ。彼女を真正面から撮った写真が送られてきていた。ご丁寧に地図まで添付されている。
「目的は俺か……」
「なんで、丈を」
元人間であることを差し引けば、普通の猫だ。
「俺が研究所から抜け出してきたって言ったよな」
「あ! サイエンティストXって、その研究所の……」
つまり逃げた実験動物を取り戻そうという算段なのだろう。
「そんなことに江原さんを巻き込むなんて」
「行くぞ、明人。江原を取り戻そう」
「でも大丈夫か? 目的は丈」
何をされるか分からない。そう思うが、丈は既に部屋のドアの前に行っていた。
「一度逃げ出した場所だぞ。大丈夫だ!」
「行くしかないか」
明人と丈は部屋を飛び出した。
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