第99話 不器用

 恋愛は、付き合うまでが楽しい。


 誰が言ったのか知られていないが、確かに付き合ったら最期。最後まで歩み続けるか、別れるか、この二択しか存在しない。

 そして今私は、


「来ましたね……遠山くん」


 その未来を選ぶ権利を得ようとしていた。

 屋上に来た遠山くん。その右手には英梨々が出した手紙が握られている。


「来たよ、沖矢さん」


 ドクン。

 心臓が大きく跳ねる。

 英梨々にここまでお膳立てしてもらった。犬塚くんには遠山くんがここに来るよう彼の背中を押してもらった。

 これ以上ないほど整えられた舞台。告白するには最高の場所。


「わ……私は……」


 遠山くんが好き。

 優しい遠山くんが好き。慌ててる時の遠山くんが好き。緊張している時の遠山くんが好き。授業中に眠いのに頑張って起きようとしている遠山くんが好き。結局睡魔に負けて寝ちゃった遠山くんが好き。臆病な所が好き。頑張り屋さんな所が好き。楽しそうにしている遠山くんが好き。


 ────あなたの全てが好きです。


「遠山くんが……!」


 恋愛は、付き合うまでが楽しい。

 私はそうは思わない。遠山くんと一緒にいる毎日はきっと楽しみはずだから。

 もっとあなたを知りたい。


「す、しゅきです!……あ……」


 覚えているか沖矢千聖。寡二少双かじしょうそうの不器用女よ。

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