第94話 コクハク

 最近、沖矢さんに避けられている気がする。というか間違いなく避けられている。

 教室での会話はほぼ無いし、それ以外の場面でもここ最近話していない。

 もちろん思い当たる節はある。体育倉庫でキスしそうになった事だ。


「ねぇ、犬塚くん」

「なんだ?」


 僕はある日の放課後の教室、神妙な面持ちで彼に体育倉庫での出来事と今の沖矢さんとの仲を説明した。

 僕の説明を一通り聞いた犬塚くんは、


「お前がやる事っつったら一つしかねぇだろ」

「一つ?」


 犬塚くんは「あぁ」と頷く。

 そしてピンと右手の人差し指を僕の顔の前で立てる。


「告白だ」


 ……告白?

 告白とは、秘密にしていた心の内を言い明かすこと。またキリスト教で自分の信仰を公にすること。

 僕は無宗教無宗派の人間なので、信仰するものはない。……ということは必然的に前者のことになるのだが……。


「コクハクって恋愛ドラマで見るようなコクハクですか?」

「なんで敬語なのかわかんないけどそれだ」

「何を言ってるの犬塚くん」

「俺おかしいこと言ってなくね?」


 全く。わかってない!わかってないよ犬塚くん!

 告白?そんなこと出来れば苦労しないよ!


「振られる自信がある」

「……あ、あー……」


 僕の言葉を聞いて呆けたような顔になる犬塚くん。

 すると犬塚くんは後頭部をポリポリと掻きながら「これは言うか迷ったんだが……」と言うと、


「沖矢、お前のこと好きだぞ」


 アイドントアンダースタン。

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