第93話 もしも
私の友人は可愛い。
どれくらい可愛いのかと言うと、甘えてくる猫のような可愛さだ。
そんな友人こと、沖矢千聖には好きな人がいる。その名も遠山春斗。
私からしたらただ冴えないだけだが、千聖にはどこか感じるものがあるらしい。人の感じ方は十人十色とはまさにこの事なのだろう。
ある日、私はふと出来心で千聖に聞いてみることにした。
「千聖は遠山と付き合ったら何したいの?」
「ひぇっ?!」
突然のことに驚きを隠せない千聖だが、すぐに落ち着きを取り戻し、恥ずかしそうに言う。
「恋人らしいこと……かな」
「ほう。具体的には?」
「えーとね……」と言いながらスマホを操作する千聖。恋人らしいことと言えば手を繋ぐとかキスするとか、すぐに出てきそうなものだが……。
「セックスって書いてある!」
「なんちゅーワードで検索かけたんだよ」
恋愛のABCをひとっ飛びじゃない。
するときょとんとした顔で、
「でも恋人ってセックスするものでしょ?」
「いやそうだけど、そうじゃなくて!なに、千聖は遠山と付き合ったらすぐセックスするわけ?」
「そんなことしないよ!!!そういうのは……ちゃんと時がきたら……ね?」
あ、これ案外すんなりセックスするタイプだ。
大変だ。これは千聖の性教育をやり直さなければいけないほどの案件。
「セックスは別に高尚なものじゃないのよ千聖」
「処女なのにどうしてそんなこと言えるのよ」
「しょっ……?!こほん……えーと……」
確かに私は処女だが、千聖よりは恋愛に関する知識も性に関する知識も豊富。
「BL本ばっか読んでるからそうなるのよ」
「ひ、酷っ?!私だって普通のラブコメだって読むし!」
「例えば何よ」
私はスマホを操作しSafariのブックマークを開く。
「これよ!『ユウキくんの残念高校デビュー』!こういうのも読むんだから!」
「英梨々……あのね、こういう人達は現実にはいないのよ」
表示された作品のあらすじを読んだ千聖が、聖母のような目で私を見てくる。
この作品はイケメン主人公が陰キャヒロインを落とすために奮闘するという超絶面白いラブコメ。もちろん現実にこんな恋愛存在しないってことくらいわかってるわよ!
「……ないわけ?手を繋いだりキスしたりだとか」
「手をっ?!キスっ?!はしたない!」
「セックスの方がはしたないよ!」
結局、千聖が遠山と付き合ったらやりたいことはわからなかった。
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