第92話 絶叫
上手く遠山くんと接触できないまま日々は流れた。
この状況を作り出したのは私。そしてこの状況を改善できるのも私。そう考えた私は、一人の男を呼び出した。
「……なぜ俺は呼び出され縛り上げられてるんだ?」
椅子に座らせられ、手首を後ろでロープによって縛られている犬塚くんが言った。
すると英梨々が、
「いいか犬。私たちは今からお前にいくつかの質問をする。正直に答えるんだぞ?」
「まあいいけどよ……どうせ春斗のことだろ?」
「どうしてそれをっ……じゃなくて、ええそうよ。色々聞かせてくれないかしら」
危ない危ない。犬塚くんにはまだ私が遠山くんを想う気持ちを知られていないのだ。つい口を滑らせるところだった。
なんて小賢しい男なのかしら。
「まず一つ目の質問だ犬。この数日、遠山に変わった様子は見られたか?」
「塚を付けろ塚を。変わった様子?特に無いな……いや、ちょっと元気がないようにも見えなくはない」
なるほど、確かに遠山くんなら口にも表情にも出さなそうだしね。
ちょっと元気がない……ふ、ふーん、遠山くん、私と話せないのが寂しいのね?
「いやーその理由を聞いたらさ、弁当に嫌いなものばっか入ってたんだってさ!子供かよってな!」
「英梨々」
「どうした」
「処しなさい」
「了解」
この男、遠山くんと仲良いから今まで多めに見てきましたけど、ひょっとしなくても私をおちょくってるわよね?
あなたがその気ならこちらにもやりようはあるんですよ。
「お、おい!何をする気だよ!しないよな?!やめてくれよ、俺の嫌いなピーマンを大量に食わせるのだけはやめてくれ!」
「おー犬、いいフリできるじゃん。その通り、さぁ、ピーマンを食え」
「やめろぉぉぉ!!!」
ドッタンバッタンドッタンバッタン!!!
椅子に縛り付けられながら暴れる犬塚くん。でも残念ね、こちらには英梨々がいるの。
私がそう思っていると、英梨々は犬塚に優しく微笑んだ。
「いい加減にしろよ?」
「………………はい」
さすがです英梨々さん。
さて、犬塚くんにピーマンを食べさせた所で次に行くとしましょう。
「次の質問。遠山が異常な回数唇に触れるとかないのか?」
「異常な回数……?あーよく触ってるなぁ」
「えっ」
もしかして遠山くんは、あの時キスできなかったことを後悔しているの?タイミングは逃してしまったけれど、遠山くんがどうしてもっていうならいつでも……。
「理由聞いたらな、最近唇が乾燥するんだってさ。リップクリーム持ってこいよって話だよな!」
ケラケラと笑う犬塚くん。
今ので確信したわ。この男は私をおちょくっている。
こうやって動揺する私を見て楽しんでいるんだわ。
「英梨々、処しなさい」
「了解」
次の瞬間、犬塚くんの絶叫が教室内に響いた。
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