第90話 羊

 勇気を振り絞った体育倉庫での出来事は不発に終わってしまった。

 それ以降、遠山くんとは距離ができてしまったような気がする。


 いや、完全に私が避けてます。


 というのも、あの時の私の行動を遠山くんを見ると思い出してしまい、羞恥心でまともに会話が出来ないのだ。

 私だって普通に話したい。でも話せない。


 私……一体どんな顔してたんだろ……。


 とはいえ、いつまでも逃げてばかりいられないのもまた事実。

 授業でグループワークになれば必然的に遠山くんと同じグループになってしまうし、授業開始の礼の時だって視界に入ってしまう。


 ダメね、心が乱れてる。

 シャキッとしなさい沖矢千聖。

 こういう時はそう、山でも数えるとしましょう。


 山が一つ……山が二つ……山が三つ……遠くに山が四つ……遠くに山が五つ……遠山くんが……


 何を考えているの沖矢千聖!!!

 こういう時はそうよ、季節を回せばいいんだわ。


 春……夏……秋……冬……春……夏……秋……冬……春斗……


 やっぱり遠山くんになっちゃうじゃない!

 あぁもうどうしたら!!!


 この日私は、全六時間の授業全てのノートを取り忘れた。

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