第88話 百パーセント
一年前。
私はごくごく普通の女子高生だった。……もちろん今も普通の女子高生だが。
科目の先生に頼まれ、クラスにプリントの山を運んでいた私はばったりクラスメイトの遠山くんと遭遇した。
「て、手伝おうか……?」
「いいんですか?ありがとうございます」
ぎこちなく言ってきた遠山くんの提案に私は甘えることにした。
「それじゃあ半分お願いします」と私が目分量でプリントの山を上から半分ほど削り遠山くんに渡す。
彼は決してクラスの中心的な人物ではない。どちらかと言えば休み時間も自分の席から動かないことの方が多い。
でも何故か、彼のまわりにはいつも人がいる。
ずっと訳が知りたかった。何故なのか。
でもやっとわかった気がした。
「……優しいんですね、遠山くんは」
「そ、そうかな……?」
きっと彼は打算があるわけでも計画があるわけでもなく、無意識にやっているのだろう。百パーセントの親切心。
見返りを求めずして人に優しくする人などいないと思っていたあの頃の私には、それが酷く眩しく見えた。
じんわりと胸の奥に広がる温もり。
もっと彼を知りたいと思った。どんな生活をして、何を思って、何に喜ぶんだろう。
チョロい女だなと自分でも思う。
たかがプリントを運ぶのを手伝ってもらっただけじゃないか。
「優しいですよ……本当に……」
次の日から、私は教室で自然と彼を目で追うようになった。
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