第83話 テンプレ
沖矢さんの家に、幸運にもお邪魔させてもらった日から数日経ち、僕らは変わらぬ関係性のまま日々を過ごしていた。
そんなある日の放課後、
「大分終わりましたね」
「ふぅ……そうだね」
僕は体育倉庫の清掃を沖矢さんと共に任された。といってもそんなに大きいわけではなく、体育館に内蔵された小さい体育倉庫だ。
まあこれは、クラスの全員が順々にやることなので、いつかは回ってくると思っていたけど……まさか沖矢さんと一緒とは。
清掃開始から三十分、ある程度のゴミや埃は回収し終えた。
「それじゃあ私は監督の先生を呼んできますね」
「お願いします」
はぁ、この幸せな時間もここまでか……。
なんてことを思いながら僕は畳まれたマットに腰掛ける。すると、何故かまだ体育倉庫から出ていかない沖矢さん。
「どうしたの?」
「いやなんか……扉が、うっ!……開かなくて」
えっ。
いやいやいや、そんなラブコメでありがちなまさにテンプレみたいな展開はないだろう。もし僕の物語に作者がいるのだとしたらとうとうネタ切れでもしなのか、と言ってやりたい。
「貸してみて僕が、ふんっ!……ふんっ!……ふんんんんっ!」
なんで開かないの?
ねぇなんで!
「私達もしかして……」
「閉じ込められた……?」
予め言っておこう。
ラブコメでありがちなこの状況だが、本人たちが感じるのはトキメキでもドキドキでもなく、恐怖と不安。
よくもまあラブコメチックな展開ができるなぁと感心してしまう。
それに今は密室。扉が開かないのだから誰かが来ない限り中で何が起きてようとバレることは無い。
今日ここを開ける可能性があるのは掃除監督の先生だけ。
心を鋼にし、精神統一をしよう。
僕はそう覚悟を決めるのだった。
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