第77話 漫画
新学期が始まって少し経った週末。
僕は愛読している漫画の単行本を買うため二駅先の本屋に来ていた。ついでに生徒手帳を拾ってくれた書店員さんにお礼を言うつもりだ。
ただなぁ……誤解とはいえ書店員さんの中ではエロ本を読んでた少年という扱いだろうし……。
「入らないんですか?」
「入るけどさぁ……ってえっ?!」
自然に返しちゃったけど、なんでか知らないが沖矢さんがいた。
びっくりした……。
「それで遠山くんはここで何を?」
「漫画を買いに」
「それは見れば分かりますが、そうじゃなくてなんで中に入らないんですか?」
あ、確かに。
だからずっと自動ドアが開いたり閉まったりしてたのかー。壊れてるのかと思ってた。
書店員さんに挨拶するかどうかは中に入ってから決めても遅くはない。
僕は自動ドアが開いたタイミングで中に入る。
「なんで沖矢さんはここに?」
「あぁ、お母さんがここでパートしてるんですよ」
「そうなんですね」
だから沖矢さんに生徒手帳が渡されたのか。
ようやく理解した僕は、とりあえず目的の漫画を手に取る。
「遠山くんはこういうのも読むんですね」
「意外かな?」
「いいえ、男の子らしくていいと思います」
僕と沖矢さんが談笑していると、
「あれ千聖?!どうしてここに?」
「お母さん?!」
お母さん?
僕は沖矢さんの視線の先の人を自分の目で捉える。その人はこの前僕をエロ本読んでた人だと誤解した人だった。
待って、お母さんってことは……。
「あれ、その男子……あ!エ」
「わぁぁぁぁぁぁあ!!!その節はどうもありがとうございました!生徒手帳もありがとうございます!!!」
「え、あ、うん」
引かれた。でも構わない!僕の名誉のため、多少引かれるくらいどうってことは無い!
「それで千聖は何しに来たの?」
「そうよ。お母さん携帯忘れたでしょ」
「あら本当?ありがとう。そのついでにデートってわけね」
「で、デートじゃないっ!たまたま入口で会っただけっ!」
「そうです!たまたま会っただけです!」
「ふーん」
あ、信じてないなこれ。
「それじゃあごゆっくり〜」と言いながら去っていくかと思われた沖矢さんのお母さんは、僕の耳元に顔を寄せると、
「
「はい?!」
なんてこと言うんだ沖矢さんのお母さん!
普通言わなく無い?!
それだけ言うと僕に反論する時間も取らせずスタコラサッサと店の奥に姿を消した。
────会計を済ませ、店から出る。
僕としては予想外の出来事に見舞われたものの、お礼も言えたし漫画も買えたので大満足だ。
それから少しして……
ポツ。
「え?」
ポツポツポツポツ……ザァァァァァ
急に雨が降り出した。こんな漫画みたいな展開、本当にあるんだ……。
「遠山くん、傘ありますか?!」
「ありません!沖矢さんは?!」
「あると思いますか?!」
無いんですね。
どうしよう、まだ駅まではそこそこある。そこ雨の中ずぶ濡れになるのを覚悟で走るか?
「遠山くん、とりあえず私の家に避難しましょう!」
「えっ?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます