第46話 ケノビ

 期末テストの結果、沖矢さんと川に行く約束をした。

 そしてその日まであと二週間に迫った炎天下の日。


「やるぞ!」

「はい!犬塚少佐!ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!」


 僕は犬塚くんを誘って近くの市民プールへ来ていた。広さは二十五メートルプールにプールサイドがある程度で当然屋内だ。


「期限まであと二週間。せめてクロールくらいは出来るようになろう!」

「はい!少佐!」


 すると犬塚くんは「まず春斗の泳力を見せてくれ」と言う。

 たとえカナヅチの僕といえど、犬掻きぐらいは立派にこなしてみせよう!


「よーい!はいっ!」

「ふんっ……あばばばばぶぶぶぶぶっ」

「は、春斗ー!」


 僕の華麗な犬掻きに思わず補助しようとしてしまう犬塚くん。


「……もういい、大丈夫だ春斗。じゃあ次は、ケノビをしてくれ」

「なにそれ。オビ=ワン・ケノービ?」

「それスターウォーズ。ケノビってのは壁を蹴ってすぅーって泳ぐやつ」

「なるほど。やってみるよ」


 僕は犬塚くんに「ここくらいまで来てくれ」と壁から一番近い赤ラインの上に立って言われる。

 それくらいなら楽勝!


「ふんっ────!」


 切っている。水を切って進んでいるぞ僕!これならケノビだけで二十五メートルいけるんじゃないか?

 というかケノビさえ出来ればなんとかなるんじゃないか?!


「ぷはっ……どう!……あれ?」


 水面から上がった僕は犬塚くんの姿を探すが、すぐには見当たらない。


「なあ……どうしてそうなるんだ?」


 犬塚くんの声がしてそちらを振り向く。

 犬塚くんは最初に立っていた位置から移動していない。しかし僕からはケノビをする前より遠くにいる。


「……僕のケノビが伸びすぎたってことか」

「どうやったら真横にケノビ出来るんだよ!」


 そんな事言われても。

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