第45話 母と娘

 夏休みが始まって少し経ったある日の夕方。

 私は神妙な面持ちで仕事から帰宅したお母さんに向けて言った。


「お母さん、相談があります」

「え?千聖が、私に?」


 お母さんは長めのポニーテールを解くと、


「うん」

「よかろう!」


 私のお母さんはたまにテンションがおかしい。

 それはさておき、私は今日一日を掛けてアルバムを漁っていた。それも私のでは無くお母さんの。

 無論、ほとんどの写真はお母さんの実家のアルバムに入っていて、なかなか見つからなかったが、私はたった一枚、お母さんの学生時代の写真を見つけることが出来た。


「さて、相談って?」


 少々ウキウキに構えるお母さんは、リビングのテーブルに私と向かいあわせに座る。

 そして私は隠していた一枚の写真を、証拠を提示する取調室の刑事ばりの気迫でお母さんに見えるようテーブルの上に置いた。


「こ、これは……」

「えぇそうよ。これはお母さんの学生時代の写真」

「なっつかし〜!あの時は私も若かったわ〜」


 違うそうじゃない!懐古に耽る場面じゃないの!


「そこでお母さん。相談なんだけど」

「うんうん!」


「学生時代、どうやって彼氏を作ったの?」


 しんと静まり返るリビング。

 私は至って真剣だ。お母さんもそれを察しているのだろう。笑ったりふざけたりした表情はせず、「そうね……」と真剣に考えている。

 そして出てきた答えは……



「とりあえずキス」



 ………は?


「いい?!全く自分に興味を持っていないだろう男子にはとりあえずキスするの!それが出来たら『これが私の気持ち……//』って言えばいいの!高校生の男子なんてチ〇コの赴くままに生きてるんだからもうビンビンよ」

「ビンビ……っ?!」


 何がとは言わない。あれがあーなってあーなるのだ。私にだってそれくらいに知識はある。


「そして頃合を見計らって脱ぎ始める!」

「脱ぐの?!」


 え?え?

 この人、本当に私のお母さん?!

 なんで私にはそのワイルドさが受け継がれてないの?!


「あとは股を広げて『ちょうだい……//』って言えばクリア!」

「っ////」


 瞬間、私はジュボッとパンクしたかのように机に突っ伏した。


 そ、そんなこと……できるわけない……!


「あらら、千聖にはまだ早かったかしら?」


 そんなお母さんの声が遠くに聞こえた。

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