第39話 恋愛ROM専

 突然だが、私の友人は可愛い。

 女の私でさえ惚れてしまいそうになるほどの美貌だ。

 そんな彼女には片想いする男子がいる。

 それが今、私の視線の先で昼食の弁当を開いている遠山春斗だ。

 成績は優秀らしいが、到底千聖と釣り合う容姿とは思えない。何故好きなのかを千聖に聞いても「私だけでいいの……彼を好きなのは」みたいな少女漫画みたいなことを返されたのでそれ以上聞いたことは無い。

 さて、そろそろ一人語りはやめて本題に入ろう。


「あぅ……うぅ……」


 私は視線を横でもじもじしている千聖に向ける。

 先程から、千聖はお弁当を持っては机に置き、再びお弁当を持っては机に置きを繰り返している。

 昨晩通話した際に、「胃袋を掴め」などというネット情報を吹き込んだのだが、それを実行するつもりらしい。

 何故そこまでの行動力があるのに告白が出来ないのか聞きたい。


「やっぱり明日にしようかな」

「さっさと行きなさいよ」

「英梨々のいじわる……」


 私は尻込みする千聖の背中を押す。

 多少の意地悪くらい許して欲しい。何故って?私の勘だけど、あとこんな感じのエピソードが六十くらいあるんじゃないかと思っているからだ。そんなの、意地悪しなかったら骨折り損でしかない。


「はいはいシャキッと!あ、じゃあもう呼んじゃおー!」

「え、ちょまっ!」

「遠山ー!ちょっと来てー!」

「英梨々ぃぃい?!?!」


 千聖が今にも泣きそうな顔で私の名を呼ぶ。

 私の呼び掛けが聞こえた遠山は、こちらに歩いてくる。


「どうしたの?」

「あーちょっと、千聖から話があるみたいで」

「え?!沖矢さんから……?」


 そうそう、この反応がみたかった。

 これも私の勘だが、遠山は千聖のことが好きなのではないかと睨んでいる。千聖は気付いてないようだけど明らかに耳が赤い。


「え、えーと……これ!」

「これ……お弁当?」

「……うん。自分で作ってみた……んだけど、味見してくれない……?」

「僕でいいの?!柏木さんだって……」

「つべこべ言わずに食べる!」

「は、はいぃ!」


 思わずつっこんでしまった。

 遠山は千聖のお弁当に入っている爪楊枝の刺さった卵焼きを取ると、口の中に放り込んだ。


「……どうかな……?」

「美味しい」

「っ!」


 よし、そのまま告白を────


「あ、ありがとう……!じゃ、じゃあまた」

「え、あ、うん……?」


 なんでだよもぉぉぉお!!!そこは告れよぉぉぉお!!!

 ……全く、千聖の恋愛のサポートは私がするしかないようね。


 リードオンリーメンバー。そう、恋愛ROM専の私が。

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