第29話 勘違い

「お待たせしました遠山くん」

「ううん、大丈夫だよ」


 僕は修学旅行三日目の夕食後、沖矢さんをホテルの展望台に呼び出した。

 全ては二日目の愚行を謝罪するために。

 今思い返してみても、なんと我ながら惨めなものだろうか。それをしかも沖矢さんに看病してもらうなんて……。情けなさすぎる。

 きっと嫌われたに違いない。それでも、そんな僕に付き合ってくれた沖矢さんには、謝罪と感謝をするべきだろう。


「それで……話とは?」

「う、うん……えーっと」


 沖矢さんから話を振ってくるのは思ってなかったので、ついつい動揺してしまう。

 一度心を落ち着かせよう。

 僕は一度目を閉じ、すぐに開ける。

 視線の先には月明かりに照らされた沖矢さんの姿がある。この時間帯なら風呂上がりということはないだろうけど、それでも艶のある沖矢さんの髪に白い柔肌が、どことなく色っぽく映える。

 沖矢さんは本当に綺麗だ。


 ……って!違う違う!

 なに告白みたいな雰囲気を醸し出してるの僕!違うでしょ!謝罪するんでしょ!

 いやまぁ確かに、その告白におあつらえ向きな場所だけれども……。本来の目的を忘れてはいけない。


「えーと、話っていうのは……」

「はい……っ!」


 ごちゃごちゃ考えるのはやめよう。言いたいことをはっきり言うべきだ。



「ごめんなさい!昨日は沢山迷惑かけました!それとありがとう!看病してくれて!」



 僕は頭を下げながら早口にそう言った。

 沖矢さんの返事は……


「話ってですか?」

「え、う、うん……」

「うぅ……//」


 頭を上げた僕の視界に入ってきたのは、顔を真っ赤にした沖矢さん。

 え、え、え?僕なんか辱めるようなことしたかな?!


「私部屋帰ります!」

「え、あ、はい。おやすみなさい」

「おやすみなさいッ!」


 沖矢さんが展望台から姿を消した後、僕は……


「あれ……なんか怒らせるようなことした……かな……?」


 そんな不安にかられるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る