第27話 苦労

 修学旅行三日目。僕はその日、昨夜犬塚くんがボソッと言った言葉が気になっていた。


『苦労するな……沖矢も……』


 というのも、昨日の消灯時間間際、布団に入った犬塚くんが呟いたのだ。

 普通に考えれば『沖矢さんが僕に想いを寄せていて、それに一向に気が付かない僕に苦労している』という意味なのでは、と推測できるが、人生はそんなに甘いものじゃないことは百も承知。

 となれば、僕が沖矢さんに苦労を掛けたこと……。


 やっぱり昨日の自由時間かなぁ……。


 昨日の僕は体調が非常に悪く、沖矢さんにとても迷惑を掛けてしまった。

 そりゃあ心身ともに苦労を掛けてしまったことだろう。

 やっぱり、謝らないといけないよね。

 僕はそう決心すると、柏木さんと共に僕達の前を歩く沖矢さんの肩を叩いた。


「ひゃっ……と、遠山くん?!どうしたんですか?」


 あ、どうしよう。何を言うか考えてなかった。

 ただ肩を叩いてしまった手前、何も言わないわけにはいかないよね……。


「沖矢さん」

「は、はい!」


 とりあえず、謝る時に言うことは後で考えるとして、


「後で話したいことがあるので、夕食の後話せますか?」

「えっ……いいですけど……?」


 僕の話したい内容にピンと来ていないらしい沖矢さん。

 それでもいい。謝らないと僕の気が済まないんだ。


「遠山くんが……私に、ですか……?」

「はい、そうです。ダメですか?」

「いえいえ!もちろん大丈夫ですよ!むしろウェルカ……じゃなくて楽しみにしていますね!」


 え、ただ謝るだけのことを楽しみにされても……。

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